最新文庫 手に汗握るサスペンス本特集
「メモリーを消すまで」山田悠介著
予想外の展開に手に汗握る、サスペンス小説の世界はいかが? 今回は、記憶削除の任務を担う男、子どもに翻弄される女たち、痛みの感覚を失った男女、コロナ禍に立ち上がったデリヘル嬢、極秘任務に復帰した白髪の老人が登場する5つの文庫サスペンス小説をご紹介!
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2030年6月、政府は国民にメモリーチップの装着を義務付けた。メモリーチップには150年分の記憶容量があり、経験のすべてが記録に残るため、全国民が監視カメラと同様の役割を担うことができる。加えて犯罪者は犯罪の記憶を部分削除され、重罪なら全記憶削除が執行されるため犯罪撲滅につながるというのだ。記憶消去に携わるのは、国家試験をパスした記憶操作官のみ。相馬誠も、正義感から記憶操作官になったひとり。
ある日相馬は、尊敬していた森田本部長が突然左遷されることを知り、一課の課長である黒宮が裏で手をまわしたのではないかという疑いを持つ。というのも、相馬は黒宮の不審な動きを目撃していた……。
SF的設定の近未来サスペンスだが、記憶消去という武器を手に入れた権力者の暴走が妙にリアルだ。
(河出書房新社 968円)
「誰かが見ている」宮西真冬著
不妊治療が成功して子を授かった千夏子は、こんなはずではなかったという思いで毎日を送っていた。生まれてきた子に手がかかり、保育園でも問題児扱いされて消耗していたのだ。
以前不妊ブログをつづっていたときには多くの読者から応援され、妊娠時にはお祝いコメントをもらって幸せの絶頂にいたのに、今は子どもを愛することができない。
そんなある日、タワーマンションに住む子連れの女性・柚季に声をかけられ、彼女の家の写真を撮ってブログに載せることを思いつく……。
千夏子のストーリーを軸に、人間関係に疲れ結婚に逃げたい保育士の春花、子どもが欲しいのにセックスレスに悩む結子、訳あってタワーマンションに越してきた柚季という3人の女性の葛藤が絡み合い事件が起こる。
第52回メフィスト賞受賞作品。
(講談社 748円)
「アンダーグラウンド・ガールズ」草凪優著
物語の舞台は、東京・吉原の高級ソープランド「ヴィオラ」。120分10万円という最高値のソープランドで、30年を超える歴史と格式を持ち客筋も選ぶ異色の店だ。しかし、新型コロナの影響で店は廃業し、ナンバーワンの波留をはじめとする美人キャストは行き場を失った。
そんなとき、波留を人一倍ライバル視していた水樹が、キャストだけでデリヘルを始めようと言い始める。常連客にメールを入れ密かにサービスが始まった。キャスト同士が助け合う仕事場は居心地が良く、当初は順調に売り上げを伸ばしていった。ところが、ある日ヤクザの罠にはまり、波留が監禁されてしまった。波留を取り戻すべく、仲間はヤクザのたまり場の裏カジノに乗り込むのだが……。
体を張って生きる女の本気がエロチックに描かれる官能サスペンス。
(実業之日本社 880円)
「ペインレス(上・下)」天童荒太著
主人公は、ペインクリニックに勤務する美貌の女医・野宮万浬。幼い頃から痛みに興味を持ち、特に無痛症の患者への好奇心があった。彼女のもとには、痛みを取り除いてほしいという患者のほかに、快楽的な痛みを感じさせてほしいと望む老人や、個人情報を知られたくない傷を負った患者もやってくる。
そんなある日、外国でテロに巻き込まれた後遺症で、痛みを失った貴井森悟が万浬のクリニックを訪れた。森悟は、なぜ万浬が痛みにこだわるのかと問い詰める。万浬は痛みを失った後の肉体的・精神的変化を知るためと称して、彼のセックスを診断したいと言い出すのだが……。
体に痛みを感じない森悟と、心に痛みを感じない万浬の出会いから、ふたりの過去が暴かれる。常識を超えた人間の根源が揺さぶられる衝撃作。
(新潮社 各737円)
「俺はエージェント」大沢在昌著
フリーターの青年・村井が、居酒屋に入るところから物語は始まる。店にいたのは、70歳すぎの白川という顔なじみの客。大将やおかみさん、後から来店した推理作家・大西を交えて、スパイ小説談議に花を咲かせていると、白川に取り次いでほしいという電話が店に入った。
電話を受けた白川は早々に席を立ち、金欠の村井も自分のアパートに戻ったのだが、その直後村井の家に白川が訪ねてきた。ある任務が復活したので村井に手伝ってほしいというのだ。白川は自分がシークレットエージェントであり、協力しなければ村井も敵側に拉致されると話すのだが……。
白髪老人とフリーター青年がコンビを組み、絶体絶命のピンチを切り抜けるサスペンス小説。誰が敵で誰が味方なのか、想定不能なストーリーに翻弄される。
(小学館 1155円)