その道の達人が事件を解決する 文庫ミステリー本特集
「名古屋駅西 喫茶ユトリロ」太田忠司著
「蛇の道はヘビが知る」というように、特殊な世界のことはその道のエキスパートが一番知っている。料理、不動産、法廷とさまざまな分野の事件を<その道の達人>が解決するミステリー。達人たちの鮮やかな手さばきを堪能しよう。
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名古屋駅西側の通称「とうもろこしホテル」に宿泊した東京の大学生、南原雫と高山由紀は、名古屋名物のモーニングサービスを食べようと、「喫茶と軽食 ユトリロ」に入った。店のスタッフも客も名古屋弁で、雫たちには意味がわからない。
男性2人が話している。「おぐらのやつあやすかったな」「かつのときはまっとはよまわしせなかんに」 ???
店主の孫の医大生、龍に、男性2人の話の意味を教えてもらっていると、龍の祖父、正直が話しかけ、龍の顔が引き締まった。ユトリロでランチも食べ終えて、店を出ようとすると、正直が「あんたのおかげで助かった」と言う。雫たちのしたことが、なんと窃盗犯の逮捕に役に立ったのだ。
小倉トースト、味噌煮込みなどのメニューや名産品七宝焼などをヒントに謎を解く、地方色あふれるご当地連作ミステリー。
(角川春樹事務所 726円)
「手がかりは一皿の中に FINAL」八木圭一著
グルメサイト「ワンプレート」で食リポートを書いている北大路亀助は、松江で美食仲間と、船内でお茶をたてるという趣向の「お茶船」に乗った。
ところが、仲間の小室が「あ、いたた」と声を上げた。尻の下に小豆があったという。亀助は「小豆とぎ橋」の伝説を思い出してぎょっとした。普門院近くにある「小豆とぎ橋」で女の幽霊が小豆を洗っているときに、謡曲の「杜若」をうたいながら渡ってはいけないといわれている。それを無視して渡った侍が、自宅の前で妖艶な女に箱を渡された。開けてみると、中に我が子の生首が入っていたという。
船旅が終盤に差しかかった頃、川面に小箱が浮かんでいて、中には赤く染まった人形の首が入っていた。
グルメ探偵が、のどぐろ、京料理など各地の美食にまつわる謎を解く4編の短編ミステリー。
(集英社 759円)
「近鉄特急 伊勢志摩ライナーの罠」西村京太郎著
3月1日、熟年世代向けの雑誌「マイライフ」の編集者、味岡みゆきと楠本弘志は、鈴木夫妻の姿を探していた。特集の企画で還暦の夫婦に伊勢参りをしてもらうことになっていたのだが、手配した「のぞみ109号」にも「伊勢志摩ライナー」にも鈴木夫妻の姿はなく、その席には30代半ばの男女が座っていたのだ。予約していた旅館でも、2人は鈴木夫妻として振る舞っていた。
3月7日に、鈴木夫妻の息子や勤務先から捜索願が警察に提出された。やがて、隅田川で女性の絞殺死体が発見される。それは鈴木夫妻の席に座っていた女性だった。鈴木夫妻は伊勢参りにでかけたのに、偽の夫婦は伊勢には1泊しかしていないという。それを知って十津川警部は捜査方針を変えることにした。
十津川、亀井コンビが伊勢路で起きた奇妙な事件を解明する。
(徳間書房 726円)
「にらみ」長岡弘樹著
刑事の片平成之は、まず被疑者の保原尚道を値踏みするように眺める。それが片平の流儀だ。やがて、うつむいたままの保原に声をかけた。
「あんたとおれは、法廷で顔を合わせている。ちょうど4年前だな」
保原の事務所荒らしの判決が出た地裁の傍聴席で、片平は「にらみ」をやっていた。「にらみ」とは、被疑者が供述を翻したりしないように、取り調べを担当した捜査員か代理の刑事が、傍聴席の最前列から無言でにらみを利かせることで、公判対策の重要な仕事のひとつだ。
今回は、仮釈放中に保護司を毒殺しようとした容疑で取り調べているのだが、保原はひどく怯えているように見える。だが、片平が追い詰めても保原は落ちなかった。実は密かに保原をにらんでいた人物がいたのだ。
さまざまな題材やシチュエーションの短編ミステリー7編。
(光文社 660円)
「物件探偵」乾くるみ著
「ほかに好きな女ができた」と言って、30年前に中山繁行と母を捨てた父が死んだ。父は再婚相手に先立たれて1人暮らしだったので、繁行は2000万円の遺産を手に入れた。
地元の静岡市より東京都内の物件のほうが将来的な価値が見込めそうだと、繁行は山手線田町駅徒歩9分のロイヤルコージー田町603号室を1200万円で購入し、賃貸にして家賃収入が入るようにした。
だが、入居者が入って半月後、入居者から退去の申し出があった。管理会社の松下とマンションに行くと、エントランスの集合ポストはテープで塞がれているものが5、6カ所もあった。松下は、今までの家賃、13万2000円を8万円に下げろと言う。途方に暮れる繁行の前に、小柄な女が立っていて、「部屋が泣いています」という。
建物取引の達人、不動尊子がトラブル物件の謎を解くミステリー6編。
(新潮社 693円)