「168時間の奇跡」新堂冬樹著
主人公は、保護犬施設「ワン子の園」を運営している沢口涼也。ボランティアスタッフに支えられながら、理不尽に見捨てられた保護犬を世話し、大切に飼ってくれる里親を探す日々を送っている。かつての涼也は街金融の支店長として高給を得ていたのだが、自分の取り立てによって結果的に栄養失調で死んだ犬との出合いを契機に、その贖罪(しょくざい)として今の仕事を始めたのだ。
そんなある日、恋人の華が働く動物愛護相談センターに、売れ残った犬や猫を繁殖業者と組んで闇業者に高値で売っているペットショップがあるという通報が入る。そのペットショップは、ボランティアスタッフでトリマーの沙友里が働いている店だった。実情を探ろうとした涼也は沙友里の協力を得て調査を始めたものの、ますます疑惑が強まり、街金融時代のツテを使い業者の実態を調べるのだが……。
「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞して以来、金融業界の闇を描いた作品などで評価の高い著者による最新作。ブラックな業界から一転してボランティアに身を投じた主人公の真っすぐな正義感と現実社会との葛藤が描かれている。
(中央公論新社 1870円)