「つながり続けるこども食堂」湯浅誠氏
近年「こども食堂」をよく耳にするが、「経済的に、家でご飯を食べられない子」「孤食の子」のための福祉的な場所と捉えている人が多いのではないだろうか。
「報道がそう伝えてきたので、イメージが張り付いてしまったようですが、誤解です。今、全国に約5000カ所あるこども食堂の8割は、子供も大人も参加条件全くなし。みんなで集まることが目的で、食事はその重要なツールなんです。子供が所狭しと駆け回り、お母さんたちはおしゃべりに夢中になり、子供とおじさんが卓球や将棋をしている。そうした感じのほんわかした、誰もに孤独と孤立を防ぐ可能性を秘めた居場所なんですよ」
こども食堂は2012年ごろに始まったとされる、民間のボランタリーな活動だ。自宅、公民館、飲食店、寺など場所も、参加者が数人から何百人まで規模もまちまち。地産地消のメニューを出すところもあるが、おにぎりと味噌汁だけ、バナナと牛乳だけのところもある。この4年間で16倍になった。本書は、そんなこども食堂の現在の姿と、その可能性について問うルポルタージュである。
「2009年に政府が『日本に貧困はある』と認めてから、人々のつながりが薄くなった社会の問題として貧困があると認識されるようになりました。そんな中、私はこども食堂を知ったとき、すごい発明だと思いました。あるこども食堂に行ったとき、『母ちゃんが行って来いと言ったから来た』と話した小2の男の子がいました。その子の母親がその日たまたま忙しかったのか、それともネグレクトなのか? 聞き取りなどせずに、主宰者はその子が帰るときに『余っちゃったから、持って帰ってくれる?』とおにぎり10個を持たせたんですよ。感動しました」
さりげなくおせっかいを焼くのが、こども食堂のキモだと本書は説く。コロッケを食べたことがなかったと分かれば、次はメンチカツを出す、誕生会をしてもらったことがないと分かれば盛大に祝う。「威張る人」と「下働きをする人」で構成された昔の封建的コミュニティーと異なり、皆が横並びの活動だ。昨年の最初の緊急事態宣言期間中、多くのこども食堂が弁当の配布などに切り替えたが、「ソーシャルディスタンスをとりつつ、心は『密』に」と再開し、模索が続く。「非常時こそ社会貢献をしたい」と新しく始める人も大勢いる。
「私はこども食堂を勝手に応援しようと(笑い)、2018年にNPO『全国こども食堂支援センター・むすびえ』をつくって活動しています。フードロスが社会問題化している中、余った食材をこども食堂に寄付したいと企業から毎日のように問い合わせがあり、つないでもいます。本書を入り口に、どなたにも関心を持ってもらいたいですね」
こども食堂に助成金を出している自治体は約1割。大半は自費を投じての運営だが、年間予算30万円程度がほとんどなので、誰でも「小さな額で大きな社会貢献」ができそうだ。
本書には、鹿児島や福井、大阪、沖縄、東京のこども食堂の活動を詳細に描いているが、NPOむすびえのホームページには全国のこども食堂が都道府県別に紹介されている。中高年の男性だけで切り盛りするところもある。読後、まずは自宅近くのこども食堂に足を運んでみてはいかが。
(中央公論新社 1760円)
▽ゆあさ・まこと 1969年生まれ。社会活動家。認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。東京大学大学院在学中の90年代からホームレス支援に従事し、2008年末の「年越し派遣村」では「村長」を務めた。「反貧困」(第8回大佛次郎論壇賞等受賞)など著書多数。