「幻の弦楽器ヴィオラ・アルタを追い求めて」平野真敏著
弦楽器店に飾られていた、チェロにしては小さすぎ、ヴィオラにしては大きすぎる謎の弦楽器。ヴィオラ演奏家の著者は、その楽器を自身の公演会で使ってみることにした。楽器内部の小さなラベルに記されていたその楽器の名は、ヴィオラ・アルタ。初めて聴衆の前で演奏した著者は、遠くから歩み寄ってくるかのような音色に魅了され、その正体を解き明かす旅に出た。
本書は、昨年惜しくも逝去した著者が残した、ヴィオラ・アルタの謎解きの記録だ。2013年に集英社新書で刊行された著書「幻の楽器ヴィオラ・アルタ物語」に、彼が残した遺稿と黒川伊保子氏の序文・解説を加えた形で刊行された。
著者は楽器の収納ケースを作るドイツのメーカーで、当楽器ケースが量産されていた時期があったことや、製造ライセンスの持ち主を調査するうち当楽器とワーグナーの深い関係を探り当てる。ワーグナーに愛されたがゆえに、ナチスに利用された楽器として、表舞台から消えたのではないかというのだ。楽器が持つ音楽性に魅せられヴィオラ・アルタ演奏家となった著者の真摯な思いが伝わってくる。
(河出書房新社 1991円)