「ゴルフ文化産業論」西村國彦著/河出書房新社
小泉・竹中改革の不良債権処理の一環で、日本中のゴルフ場がハゲタカ外資の餌食になった。本書は、会員権を持つゴルファーの権利をハゲタカ外資から守る戦いを続けてきた弁護士の著書だ。
私はこれまで、政府の圧力で潰す必要のない企業の融資を絶ち、その企業をハゲタカに二束三文で売り渡したと批判してきた。100億円以上かけて造ったゴルフ場が、わずか数億円でハゲタカに売り飛ばされたのだから、ゴルフ場も同じ構図だと思っていた。しかし、ゴルフ場は、通常の不良債権処理とは構造が違うことが分かった。
私はゴルフをほとんどしない。だから、正直言って、ゴルフ場経営の仕組みをよく知らなかった。日本の場合、大部分のゴルフ場は、建設時に預託金と優先プレー権をセットにした「会員権」を販売することで資金を集め、建設資金を賄った。建設が終われば預託金の返還を請求できることになっていたが、返還を求める人はほとんどいなかった。会員権が値上がりしたため、転売したほうが儲かったからだ。ところがバブル崩壊で会員権価格が暴落すると、預託金の返還申請が殺到する。しかし、ゴルフ場は建設資金に預託金を使っているため、返還の資金がない。それで経営が行き詰まったのだ。そこでハゲタカが二束三文で会員権を買い集め、経営を乗っ取った形だ。
著者は、ゴルフを愛する会員に団結を求め、ハゲタカと対峙した。そして一部の裁判官も、ゴルフ文化を守るべきという著者の主張に軍配を上げたのだ。本書からは、著者のとてつもないゴルフ愛が伝わってくる。ゴルフは文化であり、ゴルフ場を中心にゴルフを愛する人たちのコミュニティーをつくっていくべきだというのが著者の主張だ。
つまり、本書は、強欲資本主義批判を超えて、社会の在り方を変えていこうという未来のグランドデザインなのだ。
もちろん著者は、すべてのコミュニティーをゴルフ中心にしようと言っているわけではない。音楽の町、演劇の町など、さまざまな形があってよい。ただ、そうした文化を強欲資本主義にさらしてはならないと主張しているのだ。日本人を幸せにする素晴らしい政策提言だ。 ★★★(選者・森永卓郎)