『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』金平茂紀著/講談社
筑紫ファンにとっては、たまらない本である。往時のアルバムを見るように、筑紫のさまざまな表情が映し出されている。
ただ、著者が身近にいたが故に、筑紫との距離がうまく取れていない感じもある。端的に言えば、筑紫の明らかな過ちへの言及がないのだ。
たとえば、現在の政治の腐敗と堕落を生んだ「政治改革」という名の小選挙区制に筑紫が賛成してしまったことをスルーしては、画竜点睛を欠くことになるだろう。
「NEWS23」の後を継いだ1人の岸井成格は「筑紫にあってオレにないものは文化だな」と言った。確かに筑紫はジャーナリストというよりは文化人であり、政治も文化で語ろうとした。政治的に劣勢ならば文化で巻き返すしかないのだが、政治のもつ非情さを筑紫は把握せず、小選挙区制に賛成してしまった。政治を苦手として遠ざけたが故に、死票を多く生む小選挙区制に賛成して政治的な悪を見逃してしまった。
立花隆は筑紫を「戦後日本が生んだ最大のジャーナリスト」と絶賛しているが、私は筑紫も立花もそうだとは思わない。「最大のジャーナリスト」と言うには、2人とも、善人過ぎた。私はむしろ、迷う筑紫に魅力を感じてきた。だから、筑紫をそうした額縁にはめてしまうことには生理的に反発する。
拙著「不敵のジャーナリスト 筑紫哲也の流儀と思想」(集英社新書)でも紹介したが、「週刊金曜日」が創刊されて間もない頃、本多勝一、筑紫、そして私の3人で広島に講演に行ったことがある。
それぞれの講演が終わり、3人が壇上に並んで質問を受けることになったが、1人の女子大生から、こんな質問が寄せられた。
「筑紫さんはショートカットの女性が好きですか、ロングヘアの女性が好きですか」
私は聴衆に見えないように筑紫の袖を引っ張り、強い口調でささやいた。
「こんなバカな質問に答える必要はないですよ」
しかし、筑紫は丁寧に答えたのである。どちらが好きと言ったかは忘れたが、その時、私は10歳も年上ながら筑紫を「かわいい人」だなと思った。ある種の人気を保ちつつ、少数派の立場に立って護憲の姿勢を崩さずに主張し続けることは決して容易なことではないだろう。その綱渡りから降りなかった筑紫の姿をこの本は捉えている。 ★★半(選者・佐高信)