対中強硬論
「ラストエンペラー 習近平」エドワード・ルトワック著 奥山真司訳
連日の国際報道で、ますます強まるのが中国の覇権拡大の動き。その高まりに比例して対中強硬論も激しさを増している。
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かねて強硬派の反共主義者として鳴らしてきたのが本書の著者。もとはルーマニア生まれだが、祖国の共産革命を逃れて一家で亡命し、イギリスで教育を受けたあと、国家安全保障問題の専門家となって英米の大学や企業で働いてきた。近年では本書の訳者がロングインタビューで対中戦略や国際情勢分析について深く尋ねる企画を編集し、次々に本にしてきた。本書もその最新刊。
巻頭、著者はつい昨年までのEUが経済利権を当て込んで中国のご機嫌取りに終始してきたと批判。ところが年が明けて間もなく、EUは態度を一変させ、米・日を最優先のパートナーとして改めて名指ししてきた。つまり、いまや米・欧さらに豪州や東南アジアまでが対中警戒シフトを敷いており、日本もこのネットワークにすぐにも参加すべきだと説く。自衛隊はアメリカとの2国間演習などにとどまらず、たとえば海自の艦艇はこれまでのように英仏蘭だけでなく、ドイツの港にも寄港して関係を深め、中国包囲網を強固にすべきだというわけだ。
対中強硬派のトランプ政権が終わってバイデン政権になったことを中国は当初歓迎したが、現政権も既にオバマ時代の失敗を繰り返すつもりはなく、民主党内の親中派もいまや脇に追いやられている。いまこそ日本よ立ち上がれとゲキを飛ばしている。
(文藝春秋 880円)
「中国共産党帝国とウイグル」橋爪大三郎、中田考著
団塊世代の社会学者として知られた橋爪氏は中国語を習得し、現地の状況もよく知る「知中」知識人だ、というのは本書の対談相手で異色のイスラム学者の中田氏。本書は両者が豊富な情報と独自の知見で語る現代中国の暗部、特に世界でもまれに見るほど醜悪な民族弾圧となったウイグル問題の核心に迫る対談だ。
中国当局は新疆ウイグル自治区への監視と弾圧をテロリストの抑止のためと説明するが、実態は「その範囲を大きく逸脱」した非道な強制収容だと橋爪氏は語気鋭く非難する。さらに、これは明らかに新疆ウイグルのイスラム教徒に対する弾圧にほかならないのに、世界のイスラム教国は声を上げないどころか目を背けている。これは許せないのではないか、と中田氏に迫る。
中田氏によれば現代のイスラム世界は団結して迫害に立ち向かうどころか、イスラム世界内部で分裂と対立に明け暮れ、イスラムのあるべき姿から離れてしまっているのだという。いわゆる中国専門家ではない立場からの鋭い中国批判。日本のあいまいな態度も遠慮なく俎上に載っている。
(集英社 968円)
「台湾有事」清水克彦著
「台湾はわが中国固有の領土。一国二制度などあり得ない。ゆえにアメリカの干渉など断じて許さない」と鼻息荒い今どきの中国。つい先日も中国の王毅外相がアメリカのブリンケン国務長官との電話会談でそうタンカを切った。
それでも国際政治の専門学者たちは「今日の米中対立は冷戦ではない」として、米中戦争の可能性は低いとみる。しかし文化放送で報道記者として世界情勢の取材に飛び回ってきた著者は、台湾への関わりについて強いわだかまりのある米中が軍事衝突に走るかどうかは「その可能性が多分にある」という。その場合、アメリカと同盟関係を結び、台湾のことを「友人」と公言する日本も、米中衝突に「必ず巻き込まれることになる」という。
本書はそこで起こるであろう台湾有事のシナリオを具体的に議論する。いざ軍事行動となった場合、中国は陸海空軍を動かすだけでなく、宇宙、サイバー、電子などの分野でも積極行動に出るだろう。それに対して台湾軍は無力。ではアメリカは? 著者は「アメリカ軍が加わったとしても勝てない」と断言する。ではどうすればいいのか。日本は安全保障政策を根底から考え直す時だと説いている。
(平凡社 946円)