伝説のコメディアンの短い生涯を辿るドキュメンタリー
「ベルーシ」
以前、大学で教えたゼミ生に、お笑い芸人を目指し、今はテレビ局員の若者がいて、その動機を「家の中が荒れてた時にお笑い番組だけは皆で一緒に見てましたから」と語ってくれた。図らずもその話を思い出したのが、現在公開中のドキュメンタリー映画「ベルーシ」だ。
この名を聞いて顔がほころぶ人を「わが同志」と呼ぼう。ジョン・ベルーシ。映画「アニマル・ハウス」や「ブルース・ブラザース」で一世を風靡しながら33歳という若さで逝った伝説のコメディアン。その短い生涯を辿ったのがこのドキュメンタリーである。
1949年、アメリカ版団塊世代としてシカゴに生まれたが、アルバニア系移民の子という出自に強い劣等感があったらしい。それをはね返すために学校では率先して笑いを取った。
そういう男は、実は神経が細くて、人知れず無理を重ねるものだ。
現に今も続く人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」(SNL)の初代レギュラーとして人気が出たベルーシだが、同じレギュラーで坊ちゃん育ちのチェビー・チェイスに張り合って無理をする。それがヘロインとコカインを混ぜたスピードボールの乱用につながったのだろう。
ベルーシとその笑いを生んだSNLのことは、みのわあつお著「サタデー・ナイト・ライブとアメリカン・コメディ」(フィルムアート社)という好著があるが、あいにく版元品切れ。SNLも日本では昔ほど人気がないのは惜しい。
ティファニー・ハディッシュ著「すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説」(CCCメディアハウス 1815円)はSNLの黒人女性で初めて番組ホストになった人気者の自伝。ここにも暗かった少女時代から脱出するために笑いに懸けた人生があった。来年こそはよい年になりますように。 <生井英考>