少女の危機感と孤独が切々と伝わるドキュメンタリー
「グレタ ひとりぼっちの挑戦」
何事によらずコロナ禍の前のことは遠い過去に感じられてしまうが、あの「北欧の少女グレタ」はどうだろう。2年前の国連の気候変動会議で怒りの涙を浮かべ、「こんな世界なのに大人たちはまだ経済成長の話ばかり。恥ずかしくないのですか」。
と訴えた16歳のスウェーデンの少女だ。先週末封切られた「グレタ ひとりぼっちの挑戦」はそんな彼女を追ったドキュメンタリーである。
気候変動への対策を訴えて彼女がストックホルムの国会議事堂前で単身座り込みデモを始めたとき、両親は反対だったらしい。中学生の身で学校にも行かないのだから当然だろう。だが、信念を貫く娘を前に俳優の父とオペラ歌手の母は理解を示す。グレタが社会運動で世に出てゆくのを父のスヴァンテは支え、励まし、叱る。アスペルガー症候群で抜群の集中力を示す一方、自閉症と摂食障害の傾向もあるグレタは放っておけば食事すらろくにしないからだ。
映像は初歩的な説明を避け、私的な場のグレタの表情を見守る。その節度ある距離の中から、まだ幼さを残す小柄な少女の危機感と孤独が切々と伝わってくるのである。
それにしても徒手空拳の少女の訴えが世界に知られるには、やはりニュースメディアの力が大きいだろう。
マックスウェル・マコームズ著「アジェンダセッティング」(学文社 2860円)は、ニュースメディアが特定の論点を中心的に取り上げることを「議題(アジェンダ)設定」と定義し、それが世間の関心(=議題)となる過程を理論化した有名な研究だ。
グレタの場合、世界中のメディアが彼女の存在に注目するにつれ、彼女の存在自体が「議題」になってしまい、彼女の訴えがどこかに押しやられた面はなかったか。それを再設定することこそ、グレタに叱られた大人世代の役目なのだと思うのである。 <生井英考>