「肉食の終わり」ジェイシー・リース著 井上太一訳
肉食や畜産について問い直す書籍は数多い。地球環境に負荷をかけ肥満の原因になるとして、消費者にビーガンやベジタリアンになって肉食文化に反対するべきだと説いてきた。
しかし本書では、そうした問題を具体的にどう解決するかについて重点的に述べており、いま必要なのは制度的変革であるとしている。そして、脱肉食を達成するために進んでいる非動物性食品開発の実例や、動物の飼育と食肉処理の代わりに細胞培養を用いて肉や卵などをつくる新興の細胞農業を紹介している。
例えば、アメリカのハンプトン・クリーク社では、膨大な植物データに基づく試行錯誤の末、ヤエナリという豆のタンパク質に熱を加えて凝固させる手法を発見。植物性スクランブルエッグの開発に乗り出し、今ではマヨネーズやクッキーなど卵を使う製品の代替品として、植物卵を使う「ジャスト」というブランドを展開している。
同社は卵商品を展開する大手食品会社や鶏卵業界に目を付けられ、「ジャスト・マヨ」は広告に偽りありだと裁判を起こされたこともある。大手企業からすれば零細企業であるハンプトンは、どうせ引き下がるだろうとみられていた。しかし同社は裁判を受けて立ち、大手企業が堅実な中小企業を叩いているという世論も沸き起こり、最終的に大手企業が訴えを取り下げるという事態にもなっている。
細胞農業による培養肉については、技術面では成熟しつつあるが、大規模な細胞増殖のための培地システムが必要など、コスト面で課題が残る。しかし、培養肉が持続可能な商品という位置づけとなり、大手企業の後援が進めば、市場デビューも近いと本書。脱肉食は、すぐそこまでやってきている。
(原書房 2750円)