「ルポ 森のようちえん」おおたとしまさ著
近年注目を集めている「森のようちえん」。園舎の中ではなく、自然体験活動を基礎とした新たな幼児教育の形だ。本書では、SDGsとも親和性の高いその活動内容や子供に与える影響などを紹介している。
森はもちろん海や川、里山など広義にとらえた自然の中で自由な活動を行わせる森のようちえん。昭和の頃から「青空保育」や「おさんぽ会」は全国で行われていたが、野外保育実践者たちにより2008年に「森のようちんえん全国ネットワーク」が設立された。毎日森で過ごす「通年型」や、通常保育の一部に森のようちえん活動を組み込む「融合型」など形式はさまざまだが、会員数は増加傾向にあり、現在では個人・団体合わせて全国でおよそ300を数えるという。
例えば、東京にある森のようちえんのとある一日を見てみると、子供たちは河原を1キロほど歩きながら自然と触れ合う。土手に生えているタンポポの綿毛を飛ばし、ノビルを引き抜いてかじり、川に入って水生昆虫を探し、流木を武器に見立てて戦いごっこを始める子供もいる。そして、数百メートルに広がって自由に遊ぶ二十数人の子供たちを、数人のスタッフが見守っている。
森のようちえんを見学した保護者からの2大質問といえば、「危なくないのか」「遊んでばかりで小学校は大丈夫なのか」であるという。しかし、教育とは“教えたい力”と“育ちたい力”がタイミングよく手を組んだところに生じる営みであり、森のようちえんはまさにこれを実践している教育の形であると本書。「自己肯定感」や「身体感覚」、そして創造力や対応力といった「非認知能力」が育ちやすいといわれる森のようちえんについて知ることのできる良書だ。
(集英社 902円)