吉川潮(作家)
1月×日 コロナ禍でステイホームが多くなり、落語会に行く機会がめっきり減った。この日は紀伊國屋ホールで春風亭小朝の会があったので出かける。「菊池寛が落語になる日」という会で、同名の新刊(文藝春秋 1760円)が出たばかりなので出版記念でもある。小朝が菊池の短編小説を落語化して口演する会は6年前に始まり、すでに9回、18席演じている。その中から選んだ9席の速記と原作を収録したのが新刊で、両方を併せ読むと、演者がどのように脚色したのかわかって興味深い。若くして天才落語家と言われた小朝が、いまだに進化していることに感服する。
2月×日 落語会に行かずとも、落語家が書いた本を読めば同じくらい楽しめる。木久扇と弟子たち著「木久扇一門本」(秀和システム 2200円)がそうだった。表紙の色が「笑点」の大喜利で木久扇が着ている着物と同じ黄色なので笑ってしまう。師匠の木久扇以外に、一門の11人全員が、弟子入り当時や修行中のことを書いている。それぞれ違っているのは当たり前だが、共通するのは師匠に対する敬愛の念だ。しくじり話があれば、ほめられた話もあり、一門の師弟愛はうるわしくも可笑しく、一気に読了した。
中でも特筆すべきは林家彦いち。新作落語を書いて演じるだけあって、文章が上手い。タイトルからして、「カレー南蛮は熱かった」なので目を引く。もう1人の「私」が自分を客観的に描く手法なので、落語の速記を読んでいるような気になる。
2月×日 本紙の連載コラムの中で一番の贔屓は、適菜収の「それでもバカとは戦え」だ。昨年単行本(講談社)になったときに読んで溜飲が下がった。特に安倍元総理、菅前総理、小池都知事、日本維新の会の面々をぶった斬るのが痛快この上ない。昨今、これらの面々がまたもや目に余るので再読する。「バカの後にバカが総理になった」とか、「保身ファーストのウジ虫たちを今こそ一掃すべき」といった見出しだけで、「いいぞ!」と言いたくなり、本文を読めば「その通り!」と共感できる。私も久しぶりに辛口エッセーを書きたくなった。