「荘園の人々」工藤敬一著
各時代の荘園と、そこに生きた実在の人物にスポットを当て、その歴史を解説するテキスト。
大仏完成後、鎮護国家の総本山となった東大寺が8世紀半ばから9世紀はじめにかけて設定した、いわゆる初期荘園は92荘4800町にのぼり、そのうち31荘が北陸3国に集中。越前の東大寺領荘園の経営の中心的役割を果たしたのが在地豪族の生江臣東人という人物だという。東人は荘園の開発に自らの資本を投入するが、官衙(かんが=役所)の造東大寺司は東人らの私的支配を持ち込ませず、古代的直接経営を志向する。それが成立したのは背後に国家権力があったからで、経営の主体が東大寺に移されると、これらの荘園は急速に衰退する。
以後、16世紀の九条家領日根荘(ひねのしょう)まで、9つの荘園とその人間ドラマから荘園の歴史を解き明かす。
(筑摩書房 1100円)