「世界の名建築歴史図鑑」五十嵐太郎著
「ビザンチン」や「ロマネスク」「ゴシック」などは知っていても、「パラパラポコポコ」や「エレメンタリズム」などの言葉をご存じの方は少ないのでは。実はこれらは建築用語。本書は、建築の歴史と現状を理解する上で重要なこうしたキーワードを、関連する世界各地の名建築の写真を添えて解説してくれるビジュアルテキスト。
始まりは、高層ビルを見慣れた現代人も畏怖する巨大さと純粋な幾何学を体現した古代エジプトの石造建築ピラミッド。続く西洋建築史のチャンピオンであるギリシャ建築が確立した「オーダー」(柱の装飾とプロポーションを中心としたデザインの基本的なシステム)にもとづく「古典主義」の様式は、現代の多くの建築物の細部にその残り香を見つけられるほど多大な影響を及ぼしてきた、という具合に順に読み進めると、建築の歴史が学べる仕掛けになっている。
西洋建築だけでなく、神話にもとづき想像された最初の小屋「天地根元宮造」にはじまり、神社建築をめぐる固有のシステム「式年遷宮」や「数寄屋造」など、独自の美をつくりあげてきた日本の建築の歴史も古代から順にキーワードで振り返る。
冒頭で紹介した「パラパラポコポコ」は、大小さまざまな形の箱がバラバラに配置された構成を持つ建築様式のこと。そして「エレメンタリズム」とは建物を構成する物理的な要素(エレメント)を主軸に据えた設計思想のことだそうだ。
著者によると、社会的な存在である建築は、感覚やセンスだけでつくられるものではなく、「その時代の影響を受けて、構想されるもの」だという。
ゆえにビジュアルだけでなく、その様式や概念にも注目して、改めて建築物と向き合えば、またひと味もふた味も違って見えてくる。
(エクスナレッジ 2420円)