「一瞬で心が整う『色』の心理学」南涼子氏
毎日毎日、コロナの感染者が増えた、減ったとデータが発表され続けて3年目。緊急事態宣言やまん防などが解除されたかと思いきや、また発令で、「なんとなくやる気が起きない」「熟睡できない」「うつ気味」と不快感を抱えている人に、「色」で悩みが解消できると説く。
「心の体調は、見ている色によって状態をコントロールできるんですね。人が受け取る情報の約87%は視覚情報です。目にするものには必ず色があり、人は起きてから寝るまでずっと色を目にしているので、無意識に色が作用し、心と体に影響しています。もともと、人間のDNAには色に関する多くの情報が蓄積されています」
本書は、占いやスピリチュアルな面で語られがちな色と心理の関係について、エビデンスをもとに科学的な視点から捉えた一冊だ。
「色の刺激が脳に伝わるルートには、主に視覚経路と非視覚経路があります。視覚経路は色を知覚して認識する経路。非視覚経路は色が無意識に脳を刺激する経路で、視神経を通過したあと、大脳辺縁系、下垂体、松果体に刺激を伝えます。これらは本能的欲求や感情、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌などに関与しています」
色が与える心理的作用について間違った認識を持っている場合も少なくない。例えば白。清潔感があり、明るくて、どんなときにも適した色のように感じるが、実はそうではないのだ。
「リモートワークで集中できない、やる気が起きないのは、白だらけの空間で仕事をしているからかもしれません。人が落ち着く色は、むしろ反射率が60%以下の色で、白は90%前後も光を反射するため、かえって人を疲れさせるのです」
2011年にトルコの大学が行った実験が興味深い。22~65歳の60人を対象に、無彩色の部屋と有彩色の部屋で課題をこなす時間を計ったところ、無彩色の部屋では平均4.8分かかった一方で、有彩色の部屋では4.3分だった。正確さも有彩色の部屋の方が高かったと報告されている。
「色が乏しい空間は刺激が不足し、感覚の鈍化や無気力など思考能力の低下をもたらします。どうしても白を使いたければ、わずかに色みを含んだオフホワイトやアイボリーの方が望ましいですね」
近頃は、外出の自粛で飲食店で酒を飲んだり、人と接したりする機会も減りがちな生活に慣れてきたとはいえ、ストレスがたまってきたら、思い切って赤を身につけてみるのもいい。
「ため込んだストレスや感情を発散させるには、抑え込まれたものを元に戻すエネルギーが必要なんです。プレゼンテーションや交渉を行うときにも自信が欲しい。そんなときは赤。アメリカ大統領の演説では赤いネクタイを締めていた方もいましたよね」
■「青」と「紫」では睡眠時間に2時間もの差
色は、メンタル的な部分だけでなく、体の調子を整える働きもある。
「夜中に目が覚める」「眠れない」などの不眠症を改善するにも、色を有意義に使うことができる。
「イギリスのホテル予約サイトが2013年に実施した調査では、寝室の色で最も睡眠を促す色は青、という結果が出ています。また、平均睡眠時間が7時間52分であるのに対して、最も睡眠を阻害するのは紫で、平均睡眠時間は5時間56分。なんと2時間も差があったんですね。青は鎮静と落ち着きを促し、紫はインスピレーションを刺激する色なのです」
本書はメンタルや体の不調を整える色以外にも、食べ物の色の働きにも言及しており、日々の生活を快適にする豊富な色使いのヒントを与えてくれる。
(青春出版社 1199円)
▽みなみ・りょうこ 1972年、東京生まれ。高齢者施設・医療施設・福祉・医療製品のカラーデザインや監修を手掛け、2003年に一般社団法人日本ユニバーサルカラー協会を設立、理事長に就任。健康検定協会理事、大学・専門学校の講師も務める。著書に「介護力を高めるカラーコーディネート術」など。