「長生き地獄」森永卓郎氏
長生き地獄、なんともぎょっとする書名だ。長生きすることは幸せではないのだろうか。
「充実した老後を送るためにはお金が必要です。そのための公的年金は現在、平均的サラリーマンと専業主婦の夫婦2人の場合、月額約21万円ですが、30年後には13万円まで下がります」と著者は警告する。
政府は年金について、2019年の財政検証では夫婦で2046年の月額は26.3万円になると試算している。なぜこれほど著者と政府の年金見通しが違っているのか。
本書は、公的年金が減り続ける昨今、現実と乖離した政府の見通しのからくりを暴き、深刻な現状を突きつけ、その上で将来どうすれば少しでも暮らしやすくなるのかを提言する。
「2000年の大規模な年金制度改正のとき初めて政府は、従来説明していた積み立て方式の運用ではなく、賦課方式で運用していると発表しました。しかし、厚生年金で40年間保険料を払い続けてきた人は現役世代の手取り収入の50%以上の年金を払えるという答弁を今に至るまで言い続けています」
働く人口が減り年金を受給する人々が増え続けている今、賦課方式で50%の受給が守れるはずがない。そこで役人の出してきた悪知恵が、実質賃金が毎年1.6%上がり続けるというものだ。
「過去30年間を見てみると年率マイナス0.4%ですから、ひいき目に見ても横ばいが良いところです。また、男性の労働力率は2040年には70歳でほぼ4分の3、75歳で約半分に増加すると仮定していますが、日本人の男性の健康寿命は72歳。無理な想定ですよ」
本書では、年金積立金の運用利回りについても厳しい予測をし、期待してはいけないと戒めている。
■夫婦で月額13万円の田舎暮らしのすすめ
では、年金で足りない生活費はどうするか。まず思いつくのが貯蓄をすることだが、2019年の金融庁の発表によると、高齢の夫婦2人の年金収入が21万円に対し、支出が26万円で月5万円の赤字となっている。65歳から95歳までの30年間で計算すると2000万円近い赤字になり、補う資産は莫大だ。
「年金が月13万円に下がると月の赤字は13万円となり、30年間では4680万円の赤字となります。さらに長生きした場合に赤字はもっと増えます。65歳でその後の生活資金を蓄えておくことはほとんど不可能です」
ならば老後、働き続ければいいのではないかと考えてみる。しかし、ここにも落とし穴がある。
「勤労収入が増えるほど税金や社会保険料の負担が急増しますが、税金がかからない対策があります。例えば東京23区の場合は平均的な厚生年金受給者で年間65万円、月に約5万4000円までの給与収入ならば給与所得控除と調整控除で控除されるので所得が発生せず、税金も年金保険料の支払いも必要ありません」
また、高齢者が年収を増やすと医療費の窓口負担が上がってしまうから要注意だ。
やがて訪れる公的年金13万円時代のあるべきライフスタイルについて、著者はこう言う。
「収入が住民税非課税となるよう抑えておくことが大事です。しかし究極は夫婦で月額13万円の収入で暮らせるようにライフスタイルを変革すること。私自身、検証を兼ね、都会と田舎の中間であるトカイナカで暮らしているんです。畑で25種類もの野菜を作っているので食費がほとんどかかりません。都会に住むとお金がないと楽しめませんが、ここでは四季の自然に癒やされますよ。夫婦で13万円でも心豊かに暮らせています」
今月、さらに詳しく老後のマネープランを考える「老後のお金大全」を発売予定というから、こちらも必読だ。
(KADOKAWA 946円)
▽もりなが・たくろう 1957年、東京都出身。経済アナリスト、独協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。テレビやラジオ、雑誌などでも活躍中。主な著書に「なぜ日本経済は後手に回るのか」「年収300万円時代を生き抜く経済学」など。