地球の同居人 生き物の不思議がわかる本特集
「昆虫の惑星」アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン著 小林玲子訳、丸山宗利監修
地球上の生き物はそれぞれの環境に即して進化し、多くの種・仲間を生み出してきた。しかし人間だけは例外で、数こそ多いが、ホモ・サピエンスという1種しかいない。今週は、知っているようで知らない地球の「同居人」たちの不思議に迫る。
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昆虫は、「個体数」と「種の数」のどちらで数えても地球上でもっとも繁栄している生き物である。自然界の中心を占める昆虫という存在があるからこそ、地球は回り続けているとノルウェーの昆虫学者である著者はいう。
地球を縁の下で支えるそんな昆虫のさまざまな生態や不思議を紹介するネーチャーエッセー。
雌にふりむいてもらうため、腹をバイオリンの弦、ペニスを弓にして大音量で音楽を奏でる水中にすむ体長わずか2ミリのミズムシ、他の雄との交尾を邪魔するため79日間「くっついていた」インドナナフシなど、驚異の能力や「セックスライフ」をはじめ、セミの出す音をまねて、おびき寄せ捕食するオーストラリアのキリギリスなどの生き残りをかけた戦略と技、そして切っても切れないヒトと昆虫との関係まで。驚きのエピソードが満載。
(辰巳出版 1980円)
「クモの世界」浅間茂著
世界に約5万種、日本には約1700種のクモがいて、その半分が網を張って餌となる昆虫を捕らえる造網性、もう半分は歩き回って獲物を捕らえる徘徊性だという。南極以外の全大陸に分布し、極寒のヒマラヤの高地から灼熱の砂漠や洞窟の奥深くまで、ありとあらゆるところに生息し、日本には水中を利用する世界で1属1種のミズグモも生息している。そんなクモの知られざる生態を370点のカラー写真で解説するビジュアルサイエンス新書。
徘徊性のクモを含め、全てのクモが糸を出す。網が壊されると、クモはその網を食べ、再び糸として利用するのだという。他にも、卵を守るために糸で包み込んだ卵嚢を持ち歩くユウレイグモや、孵化した子グモに自らの体をエサとして捧げる日本のカバキコマチグモなども紹介。
何かと嫌われ者のクモだが、一読したら、印象が一変するに違いない。
(中央公論新社 1100円)
「いきもの六法」中島慶二、益子知樹監修 山と溪谷社いきもの部編
日本には、自然や生き物を守るため、あるいは「資源」として将来にわたって持続可能に利用していくために、さまざまな法律がある。しかし、その規制は「採ってはいけない」から「そもそも、その場所に入ってはダメ」まで、多岐にわたり、生き物の種類によって異なるというから複雑だ。
そうと知らず不用意に生き物の写真をSNSにアップして、法律に違反すれば炎上は免れない。そうならないために自然の生き物に関連する法律を分かりやすくまとめて解説してくれるハンドブック。
動植物の採取はもちろん、落ち葉や木の実を拾うのも禁止されている「天然保護区域」(文化財保護法)など場所の法律に始まり、昆虫・植物の採集、哺乳類や鳥類に関するもの、そして川・湖沼・海での生物採取や釣りなどに関係する法律まで解説。さらに「天然記念物の落ちている羽を拾うのは?」や「採集禁止の昆虫の抜け殻や死骸なら拾っても大丈夫?」などさまざまなケースをQ&Aで教えてくれる頼りになる一冊。
(山と溪谷社 1980円)
「キモおどろしい生き物大集合! ビジュアル『奇怪』生物図鑑200種」森昭彦監修
すべての生き物は、長い時間をかけた淘汰と進化を経て今の姿になった。ゆえに生き物のデザインにはすべて理由があるはずなのだが、中には首をかしげてしまうようなフォルムや模様をした生き物たちがいる。
人間の想像やセンスを超えたそんなユニークな生き物を集めた図鑑。
アケビコノハというガの幼虫(写真)は、その形からしてイモムシの概念を超え、アニメのキャラクターのようだ。さらにその体表は「眼状紋」と呼ばれる不気味な模様で着飾っている。いびつで化け物のようなその「眼」ににらまれたら、すくんでしまいそうだ。このガ、成虫は擬態の名手で、その名の通り木の葉そっくり。
他にも、どう見てもサルの顔にしか見えない南米産のラン「ドラクラ・ギガス」(別名モンキー・オーキッド)などの植物から、猛毒を持つカニ「スベスベマンジュウガニ」などの水辺や海の生き物、さらにキノコ類まで。怖いもの見たさでついついページをめくってしまう。
(秀和システム 2200円)
「怪虫ざんまい」小松貴著
まだ見ぬ昆虫を求めて、全国をはいずり回ってきた昆虫学者のエッセー。
ある日、地面でじっとしているキイロスズメバチに違和感を覚えた著者。よく見ると、そのハチはネジレバネという数ある昆虫の中でも極めつきに風変わりな昆虫に寄生されていた。ネジレバネの雌は、寄生した昆虫の腹節から頭だけ出した状態で交尾、そのまま寄主の体内で幼虫を孵化させる。ネジレバネの仲間は、種ごとに寄生する昆虫の種が決まっている。著者は、探すのがもっと難しいイネの害虫ウンカに寄生するエダヒゲネジレバネを求め、田んぼに通う。
他にも、幼虫期にアリの巣の中で暮らし、アリに面倒を見てもらって成長するクロシジミというチョウや、コロナ禍で昆虫探しに出かけられない中、近所の墓場の井戸の水をひたすらくみ上げて見つけた希少な謎の地下水生生物など。
読み進むうちに、虫の魅力にとりつかれた学者の超マニアックな世界に引き込まれるに違いない。
(新潮社 1650円)