「長期腐敗体制」白井聡著/角川新書
白井聡氏の情勢分析は切れ味が鋭い。それは同氏が階級闘争史観に基づいて内政、外交、経済を見ているからだ。
民主党が下野し、第2次安倍政権が誕生してから「2012年体制」が成立したと白井氏は考える。ここでは首相の固有名詞は重要でない。安倍晋三氏、菅義偉氏、岸田文雄氏を生み出した構造が重要なのだ。
<体制とは大したものです。菅首相の下で(あるいは、岸田首相の下でも)、河井克行氏の件(二〇一九年参院選で妻の案里氏を当選させるため、広島の地元議員や後援会メンバー計一〇〇人を買収するため金をばらまいた)など、安倍氏に関するスキャンダルが再燃してくる可能性はまだあった。(中略)菅氏からすれば、トカゲのしっぽ切りをすればいいのです。つまり、検察に圧力をかけず、逆に「やれやれ」という形で後押しをしてあげる。すると検察としては、心置きなく安倍晋三氏を逮捕することができる。/(中略)しかしそれとて、二〇一二年体制の維持・安定に、いわば貢献する行為であり得るのです。(中略)安倍氏の政治生命が最終的に葬られることが仮にあっても、この体制の構造自体は変わらない。むしろ、安倍氏を捕まえることが体制維持に貢献することすらあり得る。こういう構造ができていることを、私たちは認識する必要があります>
岸田首相は安倍元首相の遺産を否定することを権力基盤の強化に用いようとしているが、これも「2012年体制」を維持するための試みなのだ。
どうすればこの体制を崩すことができるのだろうか。
白井氏は<今日本人が問われているのは、各人がそれぞれの持ち場で、その持ち場が本質的に要求することをどれほど真剣にやり遂げられるか、ということではないでしょうか>と強調する。
職場でも学校でも地域でも「嫌なことは嫌だ」と言って抵抗する。このような機運が国民の間に広がり、それを結集できる革命政党ができるならば、世の中は確実に変わると白井氏は信じているのだと思う。
評者はロシアで社会主義から資本主義への革命に伴う大混乱を目の当たりにしたので、どうしても革命には抵抗感がある。
★★★(選者・佐藤優)
(2022年6月15日脱稿)