「明治伏魔殿」野口武彦著
江戸から明治へと日本が大きな変わり目を迎えたとき、歴史に名を残した人はもちろん、時代の過渡期に居合わせた名もなき庶民にも多くの変化が訪れた。本書は、想定外の変化に遭遇した人々が体験したかもしれない5つの物語「崩し将棋」「明治天皇の馭者」「巷説銀座煉瓦街」「陰刻銅版画師」「粟田口の女」を収録した短編小説集だ。
冒頭の「崩し将棋」は、上野で茶屋を営む「蓮饅頭」の15歳の娘・お駒を中心とする子どもたちが主人公。明治になって大総督府から新しい鑑札を受けないと商売を続けられなくなったお駒の父親が、お駒を妾奉公に出すことを決めてしまったため、お駒を慕う上野っ子たちは事態に反発。日頃のいたずらぶりを発揮して彰義隊に加勢したものの、官軍は予想外の攻撃を用意していた……。
文中「東叡山戦記」「佐賀藩銃砲沿革史」「史談会速記録」などの歴史資料を裏付けにした記述が、各地であり得たかもしれない物語にリアリティーを感じさせる。
封建国家から近代国家への急激な変革を果たした明治日本の混乱と混沌(こんとん)が、変化続きの昨今の日本の姿にも重なって見えてくる。
(講談社 2310円)