「『ゴキブリ嫌い』だったけど ゴキブリ研究はじめました」柳澤静磨氏

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 夜中にガサゴソ物音がして、黒い物体がさっと走り去る。招かれざる客として突然家に現れるゴキブリは、見つかり次第すぐ殺される嫌われる虫ナンバーワンだ。自らゴキブリストと名乗りゴキブリ研究にいそしむ著者も、以前はゴキブリが大の苦手だったらしい。

「子どもの頃から昆虫が大好きだったのですが、ゴキブリだけは昆虫図鑑のゴキブリのページをセロハンテープで封印してしまうほど大嫌いでした。でも仕事で西表島に行ったとき、ヒメマルゴキブリに出合い、(あれ? ゴキブリって面白いかも?)と先入観が崩されたんです」

 著者が出合ったヒメマルゴキブリは、なんと、見た目がほぼダンゴムシだった。家によく出没する光沢のある黒い体のクロゴキブリや、茶色いチャバネゴキブリなどとは全然違う。

■世界に4600種以上

 手のひらに乗せてみたら、体を丸めて転がったその姿に感動し、今までのゴキブリのイメージが崩れ去ったという。

「ゴキブリは非常にバラエティーに富んだ昆虫です。世界に4600種類以上、日本には64種類が確認されているのですが、これでもまだ学名がついているものだけにすぎず未発見の種もたくさんいるといわれています。家に出るゴキブリだけがゴキブリではなく、カラフルなものやテントウムシのようなもの、漢方薬になるものや子守をする種もいるんですよ」

 そもそもゴキブリはカマキリと共通の先祖から分岐したカマキリに近しい存在で、卵鞘を産む、お尻に尾脚を持つなどの共通点がある。香川照之氏扮するカマキリ先生のおかげでアイドル的昆虫に上り詰めたカマキリに対して、一方のゴキブリは忌み嫌われるばかり。

「見た目や予測不可能な動きが嫌われるということもあるでしょうが、何よりも生活圏の家の中に入ってくるのが不快なのかもしれません。ただそれ以上に、子どもの頃から大人が怖がる姿を見て育つことで、深く知らないままゴキブリに嫌悪感を持つようになるのでしょう」

 とはいえ、雑食性のゴキブリには重要な役割がある。落ち葉や果実、動物の糞、朽ち木などを食べて分解するだけでなく、植物の種子を運び、他の生き物の食料にもなることから、ゴキブリがいるからこそ生きられる動植物は多いのだ。

「ゴキブリはなかなか死なないと思っている人もいるかもしれませんが、一晩容器に入れておいただけで死んでしまう種や、限られた環境にしかすめないため、絶滅が心配されて保全対象になっているものもいます。クビを切っても死なないとかいう都市伝説もありますが、たまたま家に出る種類のゴキブリの生命力が強いだけで、ゴキブリという生き物は、他の昆虫と変わらないんです」

 本書では、ゴキブリの生態や種類を解説しつつ、ゴキブリ嫌いの著者が、嫌いを克服してゴキブリをペットとして飼うようになるまでの過程から、自身が新種を発見して、論文発表、新種記載にまで至った経緯がつづられている。ゴキブリの飼育の仕方、脱皮直後のゴキブリの姿、ゴキブリを食べたらどうなるか、ゴキブリの標本づくりなどなど、知られざるコアな情報が満載だ。

「虫を見かけることが少ない都会に住む人にとって、ゴキブリは一番身近な昆虫です。嫌悪感があるからこそ無関心ではいられませんし、生活圏に出ればもちろん駆除が必要だと思います。でも、ゴキブリの生態や役割を正しく知ったうえでゴキブリに向き合うと、人間が暮らす世界とはまた別の世界が見えてきます。この夏休み、遠くに出かけるのも楽しいかもしれませんが、逆に家の中や近くの公園に行った際に足元の虫たちをよく観察してみたらいかがでしょう。思わぬ発見があるかもしれませんよ」

(イースト・プレス 1650円)

▽柳澤静磨(やなぎさわ・しずま) 1995年生まれ。日本自然環境専門学校を卒業後、静岡県の昆虫館・磐田市竜洋昆虫自然観察公園に入職。同園で「ゴキブリ展」を企画し、ゴキブリストとして注目を集める。著書に「ゴキブリハンドブック」「学研の図鑑LIVE新版昆虫」(ゴキブリ目を分担執筆)などがある。

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