背筋も頭もヒンヤリ真夏の怪談文庫本
「怪談物件マヨイガ」蒼月海里著
猛暑続きの夏。ぼーっとした頭にヒンヤリとした風を送り込みたいなら怖い話が一番だ。今週は訳アリ物件の呪いを解く呪術師から小学生が通学路から外れた道で出会う奇異なモノまで5つの怪談本をご紹介。
◇
榊誠人は、不動産仲介会社に入社したばかりのサラリーマン。社員寮に住めるという理由で入社を決めた榊だったが、残業中に何者かに話しかけられるなどの怪現象に気づく。気に入っていた社員寮でさえ社員は誰一人住んでおらず入居者は自分一人だけだと聞かされ、次第に不安になってくる。
そんなとき、黒服姿の男に声をかけられる。彼は、君は呪われているから嫌なことがあったら知らせるようにと言い、「呪術屋、九重庵」という名刺を押し付けた。実際、九重は社員寮にあった木製の人型を発見し呪いを解いてみせる。上司に報告すると、その呪術屋に力を貸してほしい物件があるらしい……。
「怪談喫茶ニライカナイ」などに続く人気の怪談シリーズ第3弾。怪しげな物件の怪奇の謎を解く呪術屋の活躍ぶりが楽しめる。
(PHP研究所 748円)
「魔偶(まぐう)の如き齎(もたら)すもの」三津田信三著
大学卒業後、作家兼探偵として奇妙な事件に関わってきた刀城言耶のもとに、若き女性編集者・祖父江偲が訪ねてきた。用件は執筆の依頼だったのだが、怖い話が好きな刀城が興味を持ちそうな話として、所有する者に福と禍の2つをもたらすという噂のある「魔偶」について話し、現在の所有者・宝亀家に一緒に行かないかともちかけてきた。興味を持った刀城が祖父江と共に宝亀家を訪れると、そこにはすでに先客がおり、そこで思わぬ事件が起こる。
上記表題作のほか、「妖服の如き切るもの」「巫死の如き甦るもの」「獣家の如き吸うもの」、文庫初収録の「椅人の如き座るもの」の計5編から成る、作家探偵・刀城シリーズ第3弾の連作短編集。ホラーと本格ミステリーを融合した独特の作風が味わい深い。
(講談社 935円)
「貧乏神あんど福の神 怪談・すっぽん駕籠」田中啓文著
良太と牛次郎は、駕籠に客を乗せて行き先まで運ぶ賃料で暮らす駕籠かき。親方から駕籠を借り、一日の終わりに駕籠代を親方に返すのだが、その日は朝から1人しか客がなく赤字になりそうで焦っていた。
そんなとき、「専念寺まで乗せてくれ」という客が現れる。これで何とかなりそうだと思った良太と牛次郎だったが、乗客は自分をスッポンの精だと言い懐からドジョウを出し始める。驚いたふたりは早く仕事を終わらせようと専念寺に急ぐが、到着したら駕籠には誰もいなかった。その翌日乗ったはずの乗客が死体で発見され、ふたりに犯行の疑いがかかるのだが……。(「駕籠屋怪談」)
ミステリーやホラーなど幅広いジャンルで活躍中の著者による書き下ろし時代小説。上記のほか「怖い絵」など計3編が収録されている。
(徳間書店 814円)
「化物蠟燭(ばけものろうそく)」木内昇著
「新選組 幕末の青嵐」でデビューして以来、直木賞や中央公論文芸賞などを総なめにした物語の名手による奇譚集。この世とあの世の間をたゆたう不可思議な話が表題作の「化物蠟燭」をはじめ、「隣の小平次」「お柄杓」「むらさき」など計7編収録されている。
最終話「夜番」は、捨てられた道具に憑いた付喪神の姿が見える修繕屋の乙次が、町内の迷子捜しを手伝ったことをきっかけに妙な相談事ばかりを持ちかけられるようになった話だ。
乙次は、夜中に奇妙な音が鳴りだして困っているという井山屋で、神司と一緒に夜番をする羽目になった。神司の偽物ぶりを見破った乙次は、自分の部屋に棲みついた何らかの化身の助けを借りつつ、解決の糸口をつかんでいく。目に見えないモノと渡り合う乙次が飄々と描かれている。
(朝日新聞出版 792円)
「短編アンソロジー 学校の怪談」集英社文庫編集部編
瀬川貴次、渡辺優、清水朔、松澤くれは、櫛木理宇、織守きょうやの6人の作家が、web集英社文庫で配信した作品を加筆修正したオリジナル文庫版。学校を舞台に巻き起こる、懐かしくて少し背筋がゾッとする短編が収録されている。
瀬川氏による冒頭の作品「いつもと違う通学路」は、遅刻しそうになり近道をして学校へ行こうとする小学校5年生の渋谷優太が主人公だ。戦国時代に城があったといわれる場所に立つ小学校には背中に何本も矢の刺さった落ち武者の霊がさまよっているという噂があった。そんなことを思い出した優太は、側溝に大きな目を持つ黒いドロドロしたモノがうごめいているのを目撃。そこに地元の女子高校生が声をかけてくるというストーリーだ。
冒険心と恐怖心の間を行き来する子ども心に戻れそう。
(集英社 726円)