「60歳からのマンション学」日下部理絵氏
「かつては分譲マンションを購入後、戸建てに買い替えることが『住宅すごろく』のゴールとされましたが、土地神話が崩壊した現在、分譲マンションを終の住処にしたいと永住志向が高まっています。例えば30年前に新築で買ったマンションは当然、築30年を超えています。建物の経年劣化が発生し、持ち主もシニアが多いわけです。子育てが終わり夫婦2人だけになるなどライフスタイルが変わる中、別のマンションへの買い替え、住み替えを希望する方が増えています」
著者は、マンション問題に詳しい評論家でありジャーナリスト。マンション建物と住人の“2つの老い”に立ち向かい、理想の住まいを手に入れるのに重要なことは何か。その具体的事例を紹介しながら、対応策を解説する本書は、還暦を過ぎてからのマンション購入の際の示唆に富んだ新常識を提供している。
たとえば3LDK、築22年のマンションに住み、初めて管理組合の役員になった58歳の男性のケース。修繕積立金を長期滞納している住民がいることを知り、2回目の大規模修繕工事を行うことの大変さに愕然とする。
「マンションは一般的に12年周期で大規模修繕が実施されます。修繕積立金の長期滞納者が督促などに応じなかった場合、大幅値上げして他の各戸が負担するなどしないと大規模修繕ができません。幸いこの方のマンションは大丈夫でしたが、国交省の調査によると実際の積立額が長期修繕計画に比べて不足しているマンションが34.8%もあるんです。この方は、大規模修繕後のほうが高値で売却できるという情報を得て、数年後の大規模修繕が終わった直後に売却できるよう準備を進めた結果、駅近の新築2LDKへの買い替えをかなえました」
しかもいまは、1990年のバブル期並みの高値で「売り時」というタイミング。元のマンションの売値は、3年前の査定額より約100万円アップしたというおまけ付きだ。「あのまま住み続けて、70代で3回目の大規模修繕を迎えたと考えるとゾッとする」と話しているという。
「シニアの買い替えは、以前と生活圏が変わらない3キロ以内に。部屋は狭くなっていいので、最寄り駅から徒歩圏内。段差がない物件。先々の加齢を考え、そういった希望が多いですね。ライフステージが変われば、どんどん住み替えたり買い替えたりしたらいいと思います。ただし、定年後にゆっくり考えようと後回しにするのはダメ。住宅ローンの申し込みは一般的に65歳まで、完済時年齢は80歳までですから。買い替えの検討は現役のうちに、一刻も早く始めたいですね」
■人気のタワーマンションの問題点も指摘
手元に現金を持っておくために、所有している自宅マンションを運営会社(事業者)に売却し、運営会社から賃貸して住むという「リースバック」という方法もあり、注目されつつある。“成功者の証し”のようなタワーマンションは、シニアの買い替え先としても人気が高いが、いざ住んでみると「3日で飽きた」との声も上がっている。
タワマンは投資・転売・節税目的の購入者も多いため、管理組合の合意形成が難しいなどデメリットも目白押しだそうだ。
(講談社 990円)
▽日下部理絵(くさかべ・りえ) 第1回マンション管理士試験に合格。新築などマンショントレンドのほか、数多くの実務経験から既存マンションに精通する。「マイホームは価値ある中古マンションを買いなさい!」など著書多数。