「アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希」吉川英梨著
〈女性秘匿捜査官・原麻希〉シリーズの第1作。「秘匿捜査官」というと、身分を秘匿して潜入捜査する捜査官のように思ってしまうが、本書の場合は、元捜査1課の刑事である主人公が鑑識課へ異動し、刑事としての才能を惜しむ元の捜1の上司がつけたあだ名だ。つまり、なにかあったときにこっちの応援を頼むよ、といったニュアンスだ。
【あらすじ】原麻希巡査部長は、旧姓佐藤だが、結婚して「ハラマキ」になってしまい、「フルネームで呼ばないで」が口癖になっている。最初は捜査1課の刑事だったが、課内のギスギスした雰囲気に嫌気が差し、鑑識課へ異動願を出す。当時付き合っていた捜査1課の刑事と結婚するつもりだったが、破局する。その後、捜査2課の刑事、原則夫と結婚。則夫はひと回り年上で再婚。25歳で無職の義理の息子・健太と小学1年生の娘・菜月の4人暮らしだ。
目黒区で参議院議員が殺害され、臨場した麻希だが、そこにアゲハという署名で「佐藤」宛てに息子と娘を誘拐したとのメモが残されていた。よくある名前なので自分とは無関係と思ったが、その後、麻希の携帯に健太の携帯から電話があり、佐藤とは自分のことだと判明。同じ頃、元鑑識課の上司であった戸倉加奈子にもアゲハから息子を誘拐したとの連絡が入る。
麻希と加奈子は、8年前に2人が関わった強姦事件が関係しているのではないかと推測する。犯人の目的は何か、皆目見当がつかないまま、2人はアゲハに翻弄されながら奇怪な事件に巻き込まれていく……。
【読みどころ】巧妙に仕組まれた誘拐事件、秘密のテロ組織、公安活動の内幕と、いささか欲張って現実離れした設定だが、原麻希というキャラクターを生かすいい器になっている。 <石>
(宝島社 503円)