「駐在日記」小路幸也著
今年の1~2月にシーズン3が放映された寺島進主演の「駐在刑事」シリーズは、元警視庁捜査1課の敏腕刑事が奥多摩の駐在所へ左遷させられ、地域の住民に溶け込みながら事件を解決していくという人情味ある刑事ドラマだ。駐在所勤務という地域密着の設定が、うまい具合に人情味が醸されるゆえんだろう。本書の主人公も横浜の刑事が地方の駐在所へ赴任になるという設定だが、こちらは夫婦での赴任で、独身の「駐在刑事」とは大きく雰囲気が変わってくる。
【あらすじ】蓑島周平は30歳、神奈川県警松宮警察署雉子宮駐在所勤務の巡査部長。妻の花は2歳年上で横浜の大学病院で外科医として勤めていたが、ある事件で利き腕に傷を負い勤務医を辞める。前任地の横浜で刑事だった周平は、心の傷も負った妻に静かな暮らしをさせたいと思い、駐在所勤務を志願したのだ。物語は、赴任直後から日記をつけるようになった花の視点でつづられる。
時は1975年。蓑島夫妻の雉子宮での初日は、折しもザ・ピーナッツ引退公演の日。雉子宮神社の神主や、唯一の寺で住人ほとんどが檀家の長瀬寺の住職など、地域の主立った人たちに挨拶を終えた翌日曜日、松宮警察署の警部から電話が入った。横浜で起きた強盗殺人事件の犯人が、故郷の雉子宮に戻る可能性があるので調べてほしいと。ちょうど食中毒にかかった20代のカップルを花が世話をしていて、周平はそのカップルの男の方がもしやと思うのだが……。
【読みどころ】ミステリー仕立てではあるが、地域の人たちとの温かな交流が物語の中心をなす。携帯のないのんびりした時代を背景に、犯罪に対しても杓子定規に罪を断ずるのではなく、地域やその人の心情に沿ったうえで解決する人情味あふれる警察小説。 <石>
(中央公論新社704円)