「アナザーフェイス」 堂場瞬一著
「イクメン」が「新語・流行語大賞」のトップ10入りしたのは2010年。その年に刊行されたのが、後に〈イクメン刑事〉シリーズとも称されるようになる〈アナザーフェイス〉シリーズ第1作の本書だ。シングルファーザーの刑事という設定で、スーパーのチラシと首っ引きになり、事件を追いながらも預けている子どもの心配をしているという、これまでの刑事ものにはないユニークな味わいを醸し出している。
【あらすじ】大友鉄は2年前まで捜査1課の刑事だったが、妻を交通事故で亡くし、息子の優斗を自分の手で育てるために、定時で帰ることのできる刑事総務課に異動した。
この2年で主夫ぶりは板につき、子どもとの時間を大切にしていた大友だが、その安穏な生活を打ち破ったのはかつての上司、刑事部特別指導官の福原だ。福原は大友に、発生したばかりの誘拐事件の捜査に加わるように命じた。
誘拐されたのは内海貴也6歳。父親の貴義は首都銀行渋谷支店の貸付係長。犯人は貴義個人ではなく勤め先の銀行に1億円支払うように要求。大友は誰にでも心を開かせるという特技を買われ、パニックに陥っている内海夫妻との折衝役を務めることに。犯人は身代金の受け取りを、人気アイドルグループのコンサートで人がごった返す東京ドームに指定。大友らは万全の準備で現場に臨むが、犯人に出し抜かれ取り逃がしてしまう。最初は家庭のこともあって消極的だった大友だが、息子と同年代の子どもがさらわれたことに憤りを感じ、徐々に事件にのめり込んでいく……。
【読みどころ】シリーズは、妻を亡くした直後の「親子の肖像」(シリーズ0)を含め、息子が高校受験を迎える「闇の叫び」(同9)まで全10冊で完結。 <石>
(文藝春秋 836円)