「凍える牙」乃南アサ著
日本の全警察官のうち女性警官の占める割合は、2006年までは5%以下だったが、22年4月現在は10.6%。〈女刑事音道貴子〉シリーズの第1作で、直木賞受賞作である本書が刊行された1996年においては、女性警官、しかも刑事となると非常に肩身の狭い存在であったろうことは容易に想像できる。
【あらすじ】音道貴子は短大卒業後、警察学校に入学、白バイ隊員になる。26歳のとき、2年先輩の同僚と結婚。その後、貴子は刑事部への異動を希望し、殺人事件担当に任用されるが、その頃から夫とすれ違いが多くなり、夫の浮気が発覚したのを機に1年前に離婚。現在は東京・立川の第3機動捜査隊に勤務している。
立川市内の深夜のファミリーレストランで、客の男が突然燃え上がるという事件が発生。しかも男の脚には正体不明の獣に噛まれた傷が残されていた。この不可解な事件の捜査本部に貴子も参加する。相棒は立川中央署の滝沢保。妻が男をつくり家を出て、男手一つで3人の子供を育てている。昔かたぎのベテランで、女の刑事という存在を受け入れられず、現場では貴子を無視して独断専行。たまに話すとしたら悪態のみという最悪の相方だった。
貴子は無視と悪罵に耐えながら必死に滝沢に食らいついていく。最初は全く手がかりがなかったが、被害者の身元が判明したことで徐々にその背景が明らかになっていく。そこへ東京のベイエリアで男が大型犬に噛み殺されるという事件の報が届く。立川の事件と関係はあるのか。事件は混迷の度を深めていく──。
【読みどころ】本書には働く女性の不当な位置づけが強い調子で描かれているが、それから四半世紀近く経つ現在、状況はどこまで改善されたのか。良き指標となる書でもある。 <石>
(新潮社 880円)