「孤狼の血」柚月裕子著
暴力団関係を担当するいわゆる「マル暴」刑事は、見た目も言動もほんもののヤクザと見紛うようなコワモテというイメージが強いが、本書に登場するマル暴刑事はそのイメージそのもの。
【あらすじ】日岡秀一は25歳の巡査。交番勤務から刑事になって初めての配属先は広島市から30分ほどの距離にある呉原市の呉原東署捜査2課。2課は暴力団関係と知能犯係に分かれていて、日岡は暴力団関係を担当。直属の上司は大上章吾巡査部長44歳。凄腕のマル暴刑事として名を馳せ、警察庁長官賞をはじめとする受賞歴も県内トップだが、強引な違法捜査も多く、訓戒処分も現役ワーストという問題人物で、監察からも目を付けられているらしい。
初対面の挨拶に赴いた日岡に、大上はいきなりヤクザに喧嘩をふっかけろと命じる。相手は素手の喧嘩をやらせたら3本の指に入るという剛の者。空手をやっていた日岡はなんとか対等に戦い大上を感心させる。
噂通りのとんでもない人間だと呆れる日岡だが、実はこの喧嘩がその後の県内を揺るがす大規模なヤクザ抗争の序章となる。
現在の呉原市は老舗の博徒、尾谷組と新興の加古村組とが互いに覇権を争い、一触即発の様相を呈していた。大上は無軌道な加古村組を壊滅して昔馴染みの尾谷組によって安定化を図ろうとしていた。しかし、加古村組の背後にいる県内最大の暴力団の思惑も絡みながら事態は意外な方向へ進んでいき、大上自身も危うい立場に追い込まれていく……。
【読みどころ】舞台は昭和63年の広島。暴対法施行前の「仁義なき戦い」の世界を彷彿させる苛烈なヤクザ同士の抗争が繰り広げられていく。役所広司(大上)、松坂桃李(日岡)のキャストで映画化もされた、悪徳警察小説の傑作。 <石>
(KADOKAWA 836円)