「『未熟さ』の系譜」周東美材著
今テレビでは、旅番組、クイズ番組、音楽番組、ニュース番組などジャンルを問わず、ジャニーズ事務所所属のタレントの出ていない番組はないといっていいほど「ジャニーズ天下」の様相を呈している。高度経済成長期下の1960年代から70年代半ばにかけて、やはりテレビ界に絶大な力を発揮していたのが渡辺プロダクション(ナベプロ)だ。著者は、この2つに共通するのは「未熟さ」だという。
ナベプロが最初にテレビ界に売り出したタレントは双子のデュオ、ザ・ピーナッツだ。彼女たちに冠せられたのは「かわいい」「無邪気」「清純」といった言葉だった。そこには、視聴者が彼女たちの成長ぶりを見守るといった戦略があった。また同プロは新人タレントの発掘・養成の学校をつくり、「スクールメイツ」というチームを発足させ、デビュー前の新人たちのアマチュアっぽさを前面に出した。
このようにナベプロは「未熟さ」をビジネスの武器としたのだ。同様にジャニーズ事務所も、初代ジャニーズ以来、歌や踊りの完璧なプロを目指すのではなく、「育ちのヨサを感じさせる健康的なムード」というアマチュア的な印象を打ち出していった。
本書は、日本のポピュラー音楽における「未熟さ」の来歴を明らかにしつつ、なぜ未熟さが求められてきたのかを考察する。その際キーワードになるのは、茶の間=家族のだんらんだ。その中心を担うのが「女・子ども」で、ポピュラー音楽が最初にターゲットとしたのは子どもが歌う「童謡」だった。少女歌劇団として発足した宝塚は〈子ども=女生徒のパフォーマンス〉という新たな形態を生み出した。こうした「未熟さ」を軸にする戦略が、やがてナベプロ、ジャニーズ、グループサウンズ、「スター誕生!」のアイドル歌手たちへと連なっていくのだ。
無垢(むく)で未完成なものに引かれるという日本人独特の心性の秘密に迫る労作。 <狸>
(新潮社 1705円)