「駆けこみ交番」 乃南アサ著
現在交番には「KOBAN」というローマ字が掲げられ、いまやSUSHIなどと同様にKOBANも国際語となった。交番システムは日本独特のものだが、1983年にシンガポールが日本に倣ってKOBAN制度を導入すると犯罪件数が半減。以後、米国の他、ラテンアメリカ諸国にも導入されて犯罪抑止に寄与しているという。
交番の役割の第一は、地域住民の暮らしの安全を守ること。本書はその役割を果たすべく奮闘する新米警官の物語だ。
【あらすじ】高木聖大が警察学校を卒業して東京・世田谷区の等々力警察署の不動前交番に配属されてまだ2カ月足らず。まだまだわからないことが多いので先輩の指示を仰がなければならないのだが、直属の藤枝主任は感情の起伏が激しく、面倒なことを人に押しつけてくる困った先輩だ。
そんな聖大を応援してくれるのが“とどろきセブン”の面々。不眠症のため夜遅くに交番に寄って聖大相手に話をする神谷文恵を中心に、大工の棟梁、植木屋など、それぞれ特技を生かした活動をする7人の老人グループで、親しく話しているうちに、聖大に近所のさまざまな情報を教えてくれるようになった。
ある日、以前親子3代で暮らしていたはずの家が、近頃は50代の主人一人しか見かけなくなった。ちょっと調べてほしいというメールが入った。どうせ長期旅行にでも行っているのだと思いつつ、くだんの家を訪れた聖大だが、そこで目にしたのは……。
【読みどころ】退屈な交番勤務に飽きていた聖大だが、とどろきセブンの人たちのおかげで思わぬ手柄を立てたり、見込まれて刑事の手伝いに指名されたり、警官としての視界が開けてくる。交番を舞台にした新人警察官の成長物語にもなっている。 <石>
(新潮社 737円)