「新装版 対談 ヤポネシアの海辺から」島尾ミホ、石牟礼道子著
「新装版 対談 ヤポネシアの海辺から」島尾ミホ、石牟礼道子著
作家・島尾敏雄の妻である島尾ミホと、水俣病患者の支援に奔走し「苦海浄土 わが水俣病」などを発表した石牟礼道子の対談集。ふたりともすでに故人だが、初版が発行された2003年から20年の歳月を経て、今回新装版として蘇った。
対談が行われた場所が、島尾敏雄が「死の棘」の最終章を執筆した鹿児島県吹上温泉の旅館ということもあり、日本列島から南西諸島にかけての島々を「ヤポネシア」と呼んだ島尾敏雄についても触れながら、身近な生活の場に常に海辺があったふたりが、島々の豊かさを振り返りながら語り合っている。
島尾は、時とともに忘れ去られる出身地・鹿児島県の加計呂麻島の料理やしきたりを語り、石牟礼は水俣の正月料理やテレビが普及したことで言葉が変化していった様子などを紹介していく。
意外な話題は、石牟礼が島尾に「死の棘」の制作秘話を尋ねるシーン。ミホは一般的には「死の棘」のモデルとして知られている自分が島尾作品のほとんどを清書していたことを語っており、小説はあくまで作家が創作した物語の世界で、自分は楽しんで読んでいることを告白している。
(弦書房 2200円)