「踏切の幽霊」高野和明著
時は1994年。東京・下北沢の踏切で幽霊の目撃証言や列車の停車騒ぎが相次いでいた。
女性誌の記者の松田は、編集長にネタを振られ、調べることに。すると1年前に身元不明の若い女性が殺されていたことが判明。そして事件発生時刻が夜中の1時3分と知り、松田はぞっとする。取材を始めた頃から、1時3分になると家に無言電話がかかってきていたのだ。
翌日、現場に向かった松田は、遮断機の下りた踏切の中に女性が立ち入っているのを目撃。助けに入ろうとした瞬間、同行のカメラマンに止められた。松田が見たものは、幽霊だったのか。
前作「ジェノサイド」で一躍有名になった著者の11年ぶりの最新刊は幽霊小説。
妻を亡くし、霊など信じなかった松田だが、女性が勤めていたキャバクラの同僚や拘留中の犯人など、さまざまな証言を積み重ね、女性の身元を探っていく。やがて霊媒師を介して知らされた、ある言葉にヒントを得た松田は、ある場所に赴いた。
少しずつ明らかになる被害女性の生前、変化する松田の心象がリアルさをもって迫ってくる。ホラーながらミステリーの様相を持ち合わせ、松田が追う怪奇現象の真相に引き込まれる。
(文藝春秋 1870円)