「ジジイの台所」沢野ひとし著
いくつになっても、自分で作った料理を食べたいと思う著者にとって、台所は活力の源。と同時に、包丁で指を切ったり油でやけどをする戦場でもあるから、常に整理整頓、明るく清潔を保ちたい、と考えている。その思いを強くしたのは20年前、奈良の寺の厨房の清楚さに心打たれたことだった。
家に戻った著者は、数年間利用していない調理器具や食器類を鋭く見つめ、処分を決定。ただし、妻が買ったものには手を出さない。包丁が飛んでくるか、離婚が待っているからだ。
1つの引き出しに1つのテーマで収納し、すっきりとした台所では、料理をするのも楽しい。だが、レシピを無視してはいけない。基本に忠実であれ。ごま油大さじ2と書かれていたら素直に従う。そして1つの食材で何でも作れるように腕を磨きたい。玉ねぎならスープ、薄切りにして油炒めなどマスターすれば、無敵である──。
片付けの習慣をつづった前著「ジジイの片付け」の第2弾。「キッチン」ではなく「台所」を愛する著者が、人生を振り返りながら食と台所の思い出をつづった。
日課の弁当作りのこと、お取り寄せや座右の料理本、果ては買い物好きの妻との攻防戦まで、軽妙なタッチで描かれるエッセーとイラストからは食べること、作ることの楽しさが伝わってくる。
(集英社 1760円)