「妖(あやかし)の絆」誉田哲也著
物語は、父親の借金のせいで母親を吉原に連れて行かれた子ども時代の欣治が、妹のたまと家にふたりだけで取り残されるところから始まる。
ひもじさに泣く妹のために近隣の畑の作物を盗むようになった欣治は、紆余曲折の末に円光寺の住職に引き取られたが、妹とふたりで世話になろうとした矢先、住職からの思いがけない裏切りに遭う。
一方、女ひとりの道中を襲ってきた怪しげな男たちを簡単に殺して市ケ谷まで歩いてきた紅鈴は、ふと何十年かぶりに円光寺に寄ってみようかと思い立つ。紅鈴はかつてその寺の本堂で寝ているところを若い坊主に見つかり、騒ぎになったためそこの坊主らを皆殺しにしたことがあった。その後、代わりの住職がなかなか来なかったため、かつてすみかにしていたのだ。しかし寺に近づいた紅鈴は、少年が男に襲われているのを察知し闇神の姿に変身する。
「妖の華」「妖の掟」に続く、妖シリーズ第3弾。本作は、人の生き血をすすって生きる絶世の美女・紅鈴と、彼女と行動を共にする欣治の運命の出会いにまで遡る。ふたりの固い絆を描いたエピソード・ゼロの物語だ。
(文藝春秋 1980円)