「教誨(きょうかい)」柚月裕子著
吉沢香純はある日、東京拘置所へ向かう。遠縁の死刑囚三原響子の身元引受人に指名されており、遺骨と遺品を受け取りに来たのだ。享年38。10年前、当時8歳の自分の娘と近所の女児を殺害した罪で死刑になった。帰り際、香純は職員から響子の最期の言葉が「約束は守ったよ。褒めて」だったと教えられる。
香純は三原家の本家に引き取りを断られた遺骨を、菩提寺に直談判するため青森県相野町に赴く。しかし、寺でも断られてしまう。
幼いころに1度会っただけだが、あのはかなげな響子と殺人犯像が重ならない香純は、響子の最期の言葉の真意を探るため、知り合った地元の新聞記者と共に関係者と面会を重ねていく。その中で香純が出合ったのは、響子が暮らした地元の、体面を気にする閉鎖的な地域性だった──。
ベストセラー「孤狼の血」「慈雨」に連なる1年ぶりの長編。著者が「これまでの作品の中で、犯罪というものを一番掘り下げた」という、女性死刑囚の内面に迫った犯罪小説だ。
響子の記憶と香純の目に映る現在とが、交互に語られ、徐々に“親ガチャ”とも言える境遇、母娘に続く負の連鎖が浮かび上がる。ラストに明かされる真実に響子だけが悪いのかと、やるせない思いが込み上げてくる。
(小学館 1760円)