「教誨(きょうかい)」柚月裕子著

公開日: 更新日:

 吉沢香純はある日、東京拘置所へ向かう。遠縁の死刑囚三原響子の身元引受人に指名されており、遺骨と遺品を受け取りに来たのだ。享年38。10年前、当時8歳の自分の娘と近所の女児を殺害した罪で死刑になった。帰り際、香純は職員から響子の最期の言葉が「約束は守ったよ。褒めて」だったと教えられる。

 香純は三原家の本家に引き取りを断られた遺骨を、菩提寺に直談判するため青森県相野町に赴く。しかし、寺でも断られてしまう。

 幼いころに1度会っただけだが、あのはかなげな響子と殺人犯像が重ならない香純は、響子の最期の言葉の真意を探るため、知り合った地元の新聞記者と共に関係者と面会を重ねていく。その中で香純が出合ったのは、響子が暮らした地元の、体面を気にする閉鎖的な地域性だった──。

 ベストセラー「孤狼の血」「慈雨」に連なる1年ぶりの長編。著者が「これまでの作品の中で、犯罪というものを一番掘り下げた」という、女性死刑囚の内面に迫った犯罪小説だ。

 響子の記憶と香純の目に映る現在とが、交互に語られ、徐々に“親ガチャ”とも言える境遇、母娘に続く負の連鎖が浮かび上がる。ラストに明かされる真実に響子だけが悪いのかと、やるせない思いが込み上げてくる。

(小学館 1760円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動