「図説 英国メイドの日常増補版」村上リコ著
「図説 英国メイドの日常増補版」村上リコ著
ビクトリア時代を舞台にした英国の映画やドラマには、黒いドレスの上に真っ白なエプロンと帽子をつけたメイドがたびたび登場する。英国では、かつて働く女性の実に3人に1人が家事使用人だったという。
本書は、ビクトリア時代(1837~1901年)から1930年代ごろまでの英国のメイドの仕事やその人生を、古写真や当時の出版物の挿絵、ポストカードなど多くの図像とともに紹介するビジュアルブック。
メイドたちの多くは、貧しい労働者の家に生まれ育った少女たちで、それまで接点のなかった富裕層の家に送り込まれ家事使用人の生活を始める。
彼女たちの職場の頂点は、王族や世襲貴族、そして上流階級の人々が所有する田園の大邸宅(カントリーハウス)だ。最大級の公爵家ともなると、300人以上、下位の貴族や上層中流階級の家でも十数人の使用人が働いていたという。
広大なカントリーハウスの場合は、メイドにも十分な居住空間が与えられるが、都市部の小さなタウンハウスに暮らす下層中流階級のメイドの主な仕事場は地階だった。
また、ひと口にメイドといっても、仕事の担当部署によって、厨房で働くキッチンメイドやスカラリー(洗い場)メイド、掃除担当のハウスメイド、乳製品を手作りするデイリーメイド、洗濯担当のランドリーメイド、雇い主夫妻やその子どもを世話するメイドまでさまざまな役割分担があった。
メイドの就職、長時間に及ぶ過酷な仕事の内容、同僚との関係、午前と午後で着替える制服、給料とその使い道、そして恋愛まで。史料に残る当事者たちの言葉を引用しながら、その実態に迫る。
知っているようで知らなかった英国メイドの世界を案内してくれる異文化紹介本。
(河出書房新社 2090円)