(93)綾瀬の周囲から風景が消えた
綾瀬の足が止まった。彼は今来た道を戻った。わずかな距離を早足で歩いただけなのに綾瀬の息は乱れていた。建物の陰に動くものはなかった。落ち葉もない。空気の渦の気配もない。綾瀬は路地の一点を見つめて動かなかった。
そこは綾瀬の住む町から二つ県境を越えた都市である。葦伏には売っ…
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