「死は予知できるか」サム・ナイト著 仁木めぐみ訳
「死は予知できるか」サム・ナイト著 仁木めぐみ訳
ロンドン近郊に住むピアノ教師、ミス・ミドルトンは、子どものころから予知能力があった。1966年に起きた採鉱廃棄物の山の大崩落事故も予知していた。
その直後、大惨事の現場アバーファン村を訪れた精神科医、ジョン・バーカーは、関係者たちに話を聞くうちに、奇妙なことに気づく。事故の予兆を感じたり、死を予感する発言をした人が少なからずいたのだ。人間の精神は時間を超越することができるのか。もし、未来を見通す力を読み解くことができれば、多くの命を救うことができるかもしれない。
バーカーは、科学ジャーナリストのピーター・フェアリーとともに予知調査局を開設し、一般人から予感や予知夢やビジョンを収集し、的中したかどうか調べることにした。調査対象はしだいに絞り込まれ、ミス・ミドルトンは、予知調査局のスター的存在になっていく。
異色の精神科医バーカーを中心に、1960年代のサイキック研究を描いたノンフィクション。著者はロンドン在住のジャーナリストで、興味本位に語られがちなテーマを論理的、科学的に追求している。
バーカーは病院改革にエネルギッシュに取り組む半面、好奇心にあふれ、オカルトにも興味を持っていた。著書「死ぬほどの恐怖」は、恐怖が死因としか考えられないケースを集めたユニークな本で、メディアがこぞって取り上げた。
バーカーは予知能力を解明しようと、当時の科学的知識を総動員し、人間の精神について、時間について、死について考察した。だが、皮肉なことに自分の死を予知され、志半ばで世を去った。
予知能力はいまだ解明されていないが、奇妙な偶然は確かに起こる。昔の友人のことを思い出していたら、直後に当人から電話がかかってきた、というような経験をした人は案外多い。人間はまだまだ謎だらけだ。
(亜紀書房 2860円)