福島泰樹(歌人、絶叫ミュージシャン)
9月×日 毎月10日、吉祥寺のライブハウス「曼荼羅」で月例「短歌絶叫コンサート」を開始してから39年目の秋を迎える。月夜の晩もあれば嵐の夜もあった。ピアノの永畑雅人、頭脳警察のTOSHIこと石塚俊明が、演奏を支えてくれた。
9月のコンサート名は、8月に引続き「大正十二年九月一日」。この間、「現代思想」臨時増刊号「関東大震災100年」(青土社 1540円)、加藤文三著「亀戸事件」(大月書店 現在は絶版)などから朝鮮人、運動家アナーキストらの虐殺現場を、時空を超えて目撃!9月×日 震災直後、横浜から発生した朝鮮人来襲の流言が、代々木初台の人々を恐怖で凍らせ、自警団結成検問虐殺に至る息詰まる3日間を、自身の体験を通して描いた江馬修著「羊の怒る時」(筑摩書房 924円)を一気に読了。
9月×日 第1歌集「バリケード・一九六六年二月」を刊行したのは1969年秋、路上には火炎瓶が炸裂し、学生は血を流して戦っていた。時代への想い去り難く第2歌集を「エチカ・一九六九年以降」と命名。以来50年、35冊目の歌集に再び年代を標し、「大正十二年九月一日」と名付けた。関東大震災は、日本の歴史を戦争へと逆流させる結果を招いた。
2刷校正を皓星社晴山生菜社長に渡す。帰りしな「シリーズ紙礫」第18巻「血の九月」(皓星社 2200円)の贈呈を受ける。「血の九月」には、江馬修の表題作が丸々収められているではないか。
9月×日 血に飢えた自警団員の検問、亀戸警察署内での警察官、及び習志野十三連隊兵士による数百人の朝鮮人、平沢計七、そして川合義虎ら若き労働組合員らの生々しい殺害シーン。小説「血の九月」を読了。
9月×日 よし、明日の曼荼羅でのコンサートで朗読してやろう。絶叫版台本作りのため再読。
9月×日 日曜日とあって昼と夜のツーステージ。大逆事件から幕を切る大正という時代の闇を、画人、文人、芸人、庶民、軍人、アナーキストらが踊りながら闊歩する。死者は死んではいない!