「文学キョーダイ!!」奈倉有里、逢坂冬馬著
「文学キョーダイ!!」奈倉有里、逢坂冬馬著
本屋大賞受賞作「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬と、「夕暮れに夜明けの歌を」で紫式部文学賞受賞の奈倉有里は実は姉弟。奈倉が初の単著を上梓した1カ月後に、逢坂が「同志──」でデビュー。世に出てからは偶然にも同時期に評価されてきたという。そんな姉弟が「家族」「作家」「世界」について自由に語り合った対談集だ。
2人が育ったのは「出世しなさい」がなかった家庭環境。逆に言えば「好きなことを見つけなさい」で、逢坂は「それはそれで結構大変だ」と子ども心に考えていたという。結果、姉は高校卒業後にロシアへ、弟はサラリーマンをしながら趣味で小説を書いていた。「同志──」の出版が決まったとき、姉がロシア考証に参加。「その名前はポーランド系だよ」「ソ連にはパン屋がないよ」と指摘され、「編集者より厳しい駄目出しだった」と振り返る。
読書の意義を高校生に尋ねられた話から「好きなことを楽しむことに存在意義を認めない世の中は殺伐とする」(逢坂)、権力者のキャラクター化について「みなが思考しないで済む楽しいところに落ち着けば、権力者は扱いやすい」(奈倉)など、ジェンダーについて、文学の役割、そして戦争についてまで。
現代文学の最前線を走る姉弟の思考の源を明かした、没入間違いなしの一冊だ。
(文藝春秋 1760円)