著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「ウネさんの抱擁」チョン・ウネ著 たなともこ訳

公開日: 更新日:

「ウネさんの抱擁」チョン・ウネ著 たなともこ訳

 わたしがイラストレーターになった発端は新宿ゴールデン街の行きつけの店のママの緊急入院にさかのぼる。今から15年前のはなしだ。急きょ、代理ママを務めることになったわたしは、お客さんの顔を覚えるため夜ごとカウンターの中で似顔絵を描いたのだった。

 それまで絵なんてほとんど描いたことがなかったので何度も失敗する。でも愛すべき酔っぱらいたちを記録しておきたい欲が勝った。あのとき悟ったのは「好きな人しか描けない」の法則。いま仕事でイラストを描くときも似顔絵がいちばん楽しい。わたしにとって「似顔絵は愛」なのだ。だからいやな政治家の顔は絶対に描けない……。

 さて本書は韓国で画家、俳優として活躍するチョン・ウネさんが描いた似顔絵ばかりを集めた画文集だ。ダウン症で発達障害のウネさんは、学校を卒業したあと行くところがなかった。その頃のことを本人は「毎日毎日、洞窟の中にいました」とつづっている。でも絵を描くようになって、彼女の視線恐怖症と独り言と歯ぎしりは消えた。

 そして2016年、ウネさんはムンホリリバーマーケット(韓国最大級のファーマーズマーケット/フリーマーケット)の一角で似顔絵を描く仕事を始める。これまでに4000人以上の似顔絵を描いたとか。それがこの本のもとになっているのだろう。掲載された似顔絵からは、ウネさんが友人知人を、そしてこの世界をどれだけ愛しているかが伝わってくる。

 タイトル通り、抱擁の絵が多い。ウネさんが相手を抱きしめている絵もたくさんあって、あぁ絵を描くのとハグするのは同じことなのだと気づく。

(葉々社 2530円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…