「四重奏」逸木裕著
「四重奏」逸木裕著
チェリストの坂下英紀は鵜崎四重奏団のチェリスト募集要項の書類を手に取った。募集の経緯を読んで胸の奥がカッと熱くなった。「団員・黛由佳の逝去に伴う欠員の補充」と書かれている。火事に遭って死んだという。
7年前、由佳は池袋のピアノバーでチェロを演奏していた。英紀が友人と店に行ったとき、由佳は突然、左手でチェロの胴体を打楽器のように叩き、側板を指先で細かく鳴らし始めた。そんな特殊奏法の演奏の後、すべての音がやみ、静寂の中、由佳はゆったりとチェロを弾きだした。訴えかけるような切々とした旋律が心にしみこんでくる。
女性チェリストの死をめぐる音楽ミステリー。
(光文社 1980円)