「双葉町 不屈の将 井戸川克隆」日野行介著
「双葉町 不屈の将 井戸川克隆」日野行介著
2011年3月11日。東日本大震災によって、福島第1原発事故が起きた。地元、福島県双葉町の町長だった井戸川克隆は、右往左往する県や国の役人に見切りをつけ、独力で避難先を探して町民を導いた。その後、井戸川と双葉町と町民はどうなったのか。10年以上にわたって井戸川を追い続けてきたジャーナリストが原発事故の本質に迫ったノンフィクション作品。
過酷事故で被災した双葉町は「復興」の名のもとに、さらなる忍従を強いられた。福島県内外の除染で生じた汚染土を最長30年間保管する「中間貯蔵施設」の受け入れを国と県から求められたのだ。故郷が汚染土の荒野になる。町民無視の冷酷な政策に真っ向から反対した井戸川は、町長の座を追われた。町議会は国や県の言いなりだった。
町長を辞めてからも、井戸川は闘い続けている。嘘と隠蔽で幕引きを図り、町民に泣き寝入りを強いる国策に、たった1人で抗っている。
そんな井戸川を「双葉町の長」として慕い、敬い、そばを離れない町民たちがいる。著者があえて「家臣」と呼ぶ彼らの多くは、井戸川と同年代の高齢者。避難先の埼玉県加須市にある井戸川の事務所に毎月1回、10人ほどの家臣が集まってくる。井戸川はこの会合を町民の学習の場と位置付けているのだが、家臣たちは井戸川の独演を黙って聞くだけで、ノートもとらないし、質問も意見も出ない。誰も井戸川の後に続いて闘おうとはせず、そのことに後ろめたさを感じてもいる。そんな家臣を、井戸川は決して見捨てない。
「不屈の将」と闘わない家臣たち。両者の有り様が、被災者の複雑な悩みと苦しみ、国策と闘う難しさを浮かび上がらせる。
他人事ではない。この作品は読者にも問いを突きつけている。「みんなが」「誰かが」ではなく、自分で考えているか。肉声で語っているか。泣き寝入りせずに闘う覚悟はあるか、と。
(平凡社 2420円)