「東京RETROタイムスリップ1984⇔2023」善本喜一郎著
「東京RETROタイムスリップ1984⇔2023」善本喜一郎著
1984年の東京は、昭和の終わりへのカウントダウンが始まるとともに、バブル景気のお祭り騒ぎへの前奏が鳴り始めていた。当時の東京のあちらこちらで撮影された点景と、同じ場所、同じ視線で撮影した現在の風景を併録した写真集。
こうして40年を一挙にさかのぼってみると、その激変ぶりに驚かされる。
1984年の新宿駅東口広場を埋め尽くしているのは数え切れぬほどの女子中高生。彼女たちが見上げているのは、街頭ビジョンの草分け的存在「アルタビジョン」。
そこに映し出された男性アイドルにクギ付けの彼女たちが手にしているのはコンパクトカメラだ。
40年後の同じ場所で同じように老若男女、そして訪日客らもまざって人々が上を見上げている。
その視線の先にあるのは錯視3Dを利用して飛び出すクロス新宿ビジョンの「新宿東口の猫」だ。
スマホを手にする人々の背後では小田急百貨店の解体工事が進んでいる。
一方、同じ新宿駅東南口、甲州街道の陸橋近くの風景はさほど変わっていない。大正時代創業の食堂「長野屋」は看板こそ新しくなったものの同じ建物で営業中で、陸橋の向こうに見えるスポーツ用品店も健在だ。
しかし、同じ場所で振り向くとこちらは激変。
1984年まで新宿駅には貨物駅があり、運送会社の支店などがあった場所は、埼京線開通に伴う東南口開発で商業ビルへと変わってしまった。
同じように、原宿や渋谷、新橋、銀座、有楽町、上野など、都内のさまざまなスポットで撮影された新旧の風景を見比べる。
同時代を生きてきた人は昔の写真に触発され、若かりし日の思い出が蘇り、若い人は知っているけど知らない世界に迷い込んだような面白みを感じるに違いない。
(河出書房新社 2000円)