背筋ひんやり 暑さを忘れるこわ~い編特集

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「続・日本現代怪異事典」朝里樹著

 日本の夏は怪談の夏。恐怖にゾッとして楽しみつつ、暑さしのぎにも役立つ優れモノだ。今回は、日本各地で囁かれる怪異を集めた事典から、謎が謎を呼び背筋が凍るホラー&ミステリー小説など、さまざまな角度から暑さを忘れさせてくれる5冊をピックアップしたぞ。

  ◇  ◇  ◇

「続・日本現代怪異事典」朝里樹著

 深夜、山道をドライブしていると女が現れ車に乗せてと頼んでくる……。一度は聞いたことのある怪談ではないだろうか。本書では、都市伝説や学校・ネットの怪談など、現代を舞台にした1000種類以上の怖い話を事典形式で紹介している。

 冒頭の怪談がとくに多いのが埼玉県の正丸峠。走り屋をテーマにした漫画「頭文字D」に登場したことで人間の走り屋が多く集まる一方、心霊スポットとしても有名だ。車に乗せてと頼んでくる女を無視すると四つん這いで追いかけてきたとか、無言でたたずむ女をナンパしたが無視されたので悪態をついて走り去ったらこれまた四つん這いで追ってきたなどの証言が後を絶たない。

 深夜の学校に現れる動物の恨みでできた「ゲレゲレ」、ある大学前の横断歩道に立つ決して背中を見せない幽霊「背無し」などゾッとする怪異が満載。これだけ多いと“ホンモノ”も交じっているかも……。

(笠間書院 2640円)

「幽霊ホテルからの手紙」蔡駿著、舩山むつみ訳

「幽霊ホテルからの手紙」蔡駿著、舩山むつみ訳

“中国のスティーヴン・キング”と呼ばれる著者の日本初上陸作品。

 作家の周旋(ジョウシュエン)は、新作のインスピレーションを得るために夜の街を徘徊し、行き当たりばったりでバスに乗り込んだ。すると、すし詰め状態であるにもかかわらず空席がひとつだけある。歩き疲れていた彼はその席に座ろうとしたが、隣席の若い女を見て息をのんだ。非常に美しい面立ちをしているが、雪のように白い衣服のあちこちに暗紅色の血痕が散らばっている。そして、周旋の目をじっと見つめ続けているのだ。

 バスは終点に到着し、車内で女と2人きりになった周旋は、誘われるまま彼女の屋敷に行き、そこで不思議な木箱を預かってしまう。やがて、彼女が心臓発作で亡くなったと聞いた日、留守番電話に彼女から1件のメッセージが。「あの箱を幽霊旅館に届けて。場所は……」

 読むほどに謎が深まる珠玉のホラー&サスペンス小説だ。

(文藝春秋 2145円)

「鳥禽秘抄」福井栄一著

「鳥禽秘抄」福井栄一著

 不思議で怪しい古典を、虫や植物などテーマ別に紹介した人気シリーズ。完結編となる本作は鳥にまつわる怪奇譚だ。

 今は昔、薬師寺の食堂から火が上がった。鎮火したころ僧たちが火事場へ向かってみると、3本の煙のようなものが立ち上っている。いぶかしがってよく見ると、それは無数の鳩が飛び回ってできた柱で、薬師寺の本尊である金堂と2つの塔は火の手から逃れていた。(出典「今昔物語集」)

 貧しい老女が翼の折れた雀を介抱すると瓢箪の種を置いていった。これを育てたところ、たわわに実った瓢箪の中から米が湧き出て、たちまち老女は裕福になった。この噂を聞きつけた隣村の老女は、雀を捕まえては骨を砕き、治るまで家に閉じ込めておいた。案の定、雀は瓢箪の種を置いていったが、これを植えたところ実った瓢箪からは毒虫が湧き出て、老女を噛み殺してしまったという。(出典「宇治拾遺物語」)

(工作舎 2310円)

「英国の幽霊城ミステリー」織守きょうや著 山田佳世子イラスト

「英国の幽霊城ミステリー」織守きょうや著 山田佳世子イラスト

 エリザベス女王の葬儀やチャールズ新国王の戴冠式の場となったイギリス王室ゆかりの建物群。しかし、有名な城のほとんどには多くの幽霊伝説が存在する。

 例えば、故・エリザベス女王も週末を過ごしていたウィンザー城。王たちの居城としてだけでなく、あるときは幽閉場所としても使われ、城内の礼拝堂には歴代の王や王妃が埋葬されている。

 そのためか、ウィンザー城には25人の幽霊がさまよっているという。例えば、16世紀に在位したヘンリー8世の幽霊。晩年は脚の腫瘍に苦しんだとされ、脚を引きずりながら歩き回る音を聞いた人が大勢いるそうだ。このヘンリー8世は何人もの妻をめとっては処刑した暴君としても知られる。最初に処刑されたアン王妃の幽霊も目撃されており、首のない姿で泣き叫ぶ頭を抱え走り回っていたなどの証言があるという。

 恐ろしい幽霊伝説から王室の秘密も読み解ける。

(エクスナレッジ 2200円)

「昭和怪談」嶺里俊介著

「昭和怪談」嶺里俊介著

 戦争と復興、高度経済成長など怒涛の時代であった昭和の各年代を舞台にした、どこかノスタルジックな怪談小説。

 戦争に明け暮れる昭和10年代。武器弾薬の運搬を見込んだ隧道工事が進められていた山奥で落盤事故が発生。運用が始まったばかりの救急車を要請する事態となった。

 ようやく到着した車を運転していたのは、近くの寺を管理しているという和尚。人手が足りず自分が来たという。重症の作業員と、恋人であるという事務員のふさえ、作業班の班長である鉢垣が乗り込み、救急車は事故現場を後にする。しかし、世間に狂気が渦巻くこの時代。車内には、生きるために身分を偽り、恐ろしい犯罪に手を染める人物がいた。(「雨の救急車」)

 テレビの登場で廃れた紙芝居屋の老人と年を取らない少年が交流する「最後の紙芝居」、バブル景気に酔いしれた不動産業の男の末路を描く「古時計」など、時代の闇を描き出す短編集。

(光文社 2420円)

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