「あの素晴しい日々」加藤和彦、前田祥丈著 牧村憲一監修
「あの素晴しい日々」加藤和彦、前田祥丈著 牧村憲一監修
今年は“トノバン”こと加藤和彦が逝ってから15年。ドキュメンタリー映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」が上映され、6月のコンサート「あの素晴しい歌をもう一度」では、北山修ほか加藤と親交のあったミュージシャンたちが集って故人を偲んだ。
1993年3月、前田祥丈は加藤にインタビューを行った。当初は、同年6月に出る予定の加藤のセルフカバーアルバムの発売に合わせてインタビューを本にすることになっていたが、直後、加藤のパートナー、安井かずみが病に倒れ、アルバムは延期、本の企画も立ち消えとなり、2009年には加藤が亡くなってしまった。このまま筐底に秘しておくのは惜しいと13年に刊行したが、長らく絶版になっていて、没後15周年に合わせて新たに蘇ったのが本書だ。
東京で育った加藤は京都で大学生活を送り、北山修らとザ・フォーク・クルセダーズを結成。解散記念に作った「帰って来たヨッパライ」が空前の大ヒットとなり、以後音楽業界へ足を踏み入れることになる。
その後、ソロ活動を経て、今や伝説的なロックバンドとして名を残すサディスティック・ミカ・バンドを結成。解散後、再びソロ活動を始め、安井かずみと共に先鋭的なコンセプトアルバム“ヨーロッパ3部作”を出す。インタビューが行われたのは、加藤が次のステージに向けてセルフカバーアルバムを企画していた頃だ。
当時の加藤は第一線から退いた感じが強かったが、音楽家としての加藤和彦をトータルに振り返り、音楽業界の加藤に対する過小評価を正そうというのが前田の企図だった。
本書ではYMOに先駆ける加藤の欧米進出戦略、高中正義、高橋幸宏らの起用、日本の音楽とは何かという問題意識など、日本のフォーク・ロック史における加藤の革新性がそこここで語られている。30年経った今、その先駆性はさらに際だって見える。 〈狸〉
(百年舎 3300円)