アートを楽しむ本特集
「メトロポリタン美術館と警備員の私」パトリック・ブリングリー著 山田美明訳
まだ暑い日が続くが暦の上では秋。芸術の秋の夜長には、アートを堪能できる本に浸ってみてはいかが。今回は、美術館警備員、常設展、現代アート、小さなミュージアムの4つの切り口からアートに接近できる本を4冊ご紹介!
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「メトロポリタン美術館と警備員の私」パトリック・ブリングリー著 山田美明訳
2008年、最愛の兄を亡くした著者は、悲しみのあまりしばらく立ち止まってみたくなり、ミッドタウンで「ニューヨーカー」誌に携わる華やかな仕事を辞め、自分が知る一番美しい場所である「メトロポリタン美術館」の警備員の仕事に就いた。本書は、彼がその後10年間美術館の警備員として働いたなかで起きた出来事や、思索した日々をつづった異色の物語だ。
展示エリアは、古代エジプト、アフリカ美術、イスラム美術など各セッションに分けられ、警備員は指定された持ち場内に立って来館者と共に偉大な作品世界に包まれる。バックヤードから見た美術館の姿も興味深い。
なお、巻末には本書に登場する芸術作品の詳細が掲載されている。これを手掛かりに、同館サイトの高画質画像を鑑賞すれば、自宅で来館者気分も味わえそう。
(晶文社 2420円)
「『わからない』人のための現代アート入門」藤田令伊著
「『わからない』人のための現代アート入門」藤田令伊著
現代アートというと難しくてよくわからないという人も多いはずだ。本書は、現代アートの現状から、そもそもどんな経緯で今日の形になったのか、作品にはどんなふうに向き合えばいいのか、さらに現代アートの意義など、もろもろの現代アート事情を解説したもの。
日本では、アートを鑑賞する際に、知識や教養を駆使して作品を読み解こうとして難解な議論に終始する「スノビズム鑑賞」か、「映え」を狙って撮影に終始して考えることを放棄して、楽しむことを優先する「ポピュリズム鑑賞」のどちらかに二分しがちだという。
一見難解な作品であっても、構えることなく鑑賞しつつ自分なりの言葉で作品に向き合う「ライフサイズ鑑賞」とでもいうべき中間の姿勢があれば、より作品に親しめるのではないかと著者は主張している。
(大和書房 1980円)
「東京のちいさなミュージアム案内」増山かおり著
「東京のちいさなミュージアム案内」増山かおり著
行列ができる大きなミュージアムもいいけれど、気軽に立ち寄れる小さなミュージアムものぞいてみたい。そんな人には、東京を中心とするエリアにある小さな美術館、博物館、文学館を紹介したこの本がお薦め。
たとえば、台東区谷中の「ギャラリー猫町」は、「猫とアートを愛する人をつなぐ」というコンセプトのもと年間約40本もの企画展示を行っているギャラリー。猫のモチーフが出迎える入り口を抜け、「にゃんこスリッパ」に履き替えて鑑賞スペースに向かう気安さに、思わずほっこりしそうだ。
ほかにも、乱歩の邸宅と書庫の土蔵が立教大学に譲渡され現在改修工事中(来年1月以降オープン予定)の「旧江戸川乱歩邸」や、活版印刷時代の活字が保存されている「市谷の杜 本と活字館」など、特徴あるミュージアムが目白押しだ。
(エクスナレッジ 1980円)
「常設展へ行こう!」奥野武範著
「常設展へ行こう!」奥野武範著
特別展や企画展には人が集まるのに、常設展には人が入っていないという光景はよく見かける。しかし、常設展には美術館のポリシーが表れており、宝物が眠っているらしい。本書は、美術は好きだけど初心者という著者が、特徴ある常設展を掲げる美術館を訪ねて、学芸員から直接その自慢のポイントを聞き、対話形式でまとめたもの。
国宝の尾形光琳作「八橋蒔絵螺鈿硯箱」を所蔵し、売店では本物さながらのレプリカを300万円で売っている東京国立博物館や、20世紀美術の名品はもちろん滝口修造の特別展示室が際立つ富山県美術館など、12の美術館が深掘りされている。
なお、来年1月の休館が発表され、存続を求める会による署名運動中(9月末まで)のDIC川村記念美術館の充実ぶりも記載されており、行く末が気にかかる。
(左右社 2750円)