猛暑を吹き飛ばせ!リアルさ満載の怪異譚特集
「日本怪異幽霊事典」朝里樹著
お金をかけずに涼しくなる方法のひとつが「怪談」。天井灯を消し、蝋燭の火でもともしながら読んでみよう。風もないのに炎が揺れたら……、後ろを振り向かないほうがいいかもしれない。
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「日本怪異幽霊事典」朝里樹著
学校の怪談の定番のひとつが音楽室の怪談である。昭和20年ごろ、群馬大学の講堂で真夜中にピアノの音が聞こえた。弾いていたのは、ピアノを習っていたが結核を患っていたため医師にピアノを弾くのを止められていた女性だった。その後、女性は亡くなったが、ピアノの鍵盤には血の痕が現れて、その痕の通りに鍵盤が鳴って曲が聞こえたという。(「ピアノの怪」)
明治の頃、青森に向かっていた人力車が、妙見のガンドウ橋で女に手招きされた。女は無言で人力車に乗り、大繁盛している成り金の家の前で降りた。そのまま門内に入ってしまったので、車夫が代金をもらおうとその家の玄関を叩くと、女中が、誰も来ていないと言う。この家の成り金にだまされた女の亡霊がやって来たのだと気づいた。(「人力車幽霊」)
「古事記」の伊邪那美命から現代の都市伝説まで、日本で記録された800以上の幽霊の話を収録。
(笠間書院 2860円)
「いろいろな幽霊」ケヴィン・ブロックマイヤー著 市田泉訳
「いろいろな幽霊」ケヴィン・ブロックマイヤー著 市田泉訳
春の後に夏が来て、秋になり、また夏が来たが、木々の葉は赤くなったままで落ちたりはしなかった。渡り鳥の群れも渡りの準備をするように見えながら、そのまま木々にとどまっている。11月になる頃、木の葉はまた緑になり、新たな夏が訪れた。世界は10月に引き返し、9月、8月、7月に。そしてまた前に向かって進み、11月1日が近づくと引き返し始める。時間は川のように流れるものではなく、振り子のように振れるものだったのか……。(「前後に揺れる物語」)
自分が木々という死体の骨の中で暮らしていることに気づいた男は、その日から眠れなくなった。男はずっと木製のテーブルで食事をし、木の床を歩いていた。木々の足首を機械が切断し、皮を剥ぎ、肋骨から扉を作る。男はそういう木々の骨でできた納骨堂で暮らしているのだ。もし木々の幽霊が存在し、体を求めて帰ってくるとしたら? 家が一瞬揺れて、静止した。(「木々の納骨堂」)
幽霊を描いた短編100編。
(東京創元社 2640円)
「霊怪真話」岡田建文著
「霊怪真話」岡田建文著
明治39年の夏、中学生が隅田川で端艇レースをしたとき、桟橋が壊れて中学生が水中に落下、1人が行方不明になった。学校側と水上警察が捜索したが見つからない。すると、付近の料理屋・東洋軒の経営者、田中金三郎が、水天宮のお守りを川に流せば見つかると言う。水上署長らは嘲笑したが、東洋軒の女中頭が水天宮の護符を持っていたので流してみたら、護符は回りながら下流に流れ、ぴたっと停止した。潜水夫が潜ってみると中学生の死体が見つかった。(「溺死体を捜し出す神符」)
昭和2年11月、日蓮宗の行者、矢部大等は山梨県北巨摩郡の大滝神社に参詣。夜、拝殿の次室で端座していると笙や篳篥の音が聞こえてきた。これは神仙の音楽であろうと思い、翌朝、社務所の巫女に尋ねた。すると巫女に神霊が憑依し、最近1年間で神の音楽を聴かせてやったのは矢部が3人目だと告げた。(「神仙の楽音」)
明治から昭和にかけて起きた実話と伝わる怪異譚を収録。
(河出書房新社 2090円)
「狐花」京極夏彦著
「狐花」京極夏彦著
作事奉行・上月監物の屋敷の庭に、季節はずれの彼岸花が一輪咲いた。摘んでも摘んでも一本だけ生えてくる。上月は不吉と感じた。屋敷を訪れていた口入屋、辰巳屋はその花を引き抜いて懐にねじ込んだ。
すると、奧から上月の娘、雪乃が現れた。雪乃は三月ほど前、上野で美しい男に出会った。乳母には恐ろしげに見えたが、その後、なぜか行く先々でその男を見かけ、雪乃は縁を感じる。その男から文がきたのだが、差出人の名の代わりに彼岸花の絵が描かれている。
監物は雪乃に外出を禁じた。25年前の「あのこと」と関わりがあるのではないかと恐れているのだ。かつて監物らは、ある一族郎党を皆殺しにしたことがあった。雪乃への文を受け取った奥女中はその日から寝付いてしまったが、死ぬ前に会いたい娘がいると口走る。
深紅の彼岸花を描いた着物をまとった“この世にいるはずのない男”が徘徊する、戦慄の時代小説。
(KADOKAWA 2310円)