「ムーンナイト・ダイバー」天童荒太著
「ムーンナイト・ダイバー」天童荒太著
震災から4年後のある夜、瀬奈舟作は亡くなった父の同級生で今年66歳になる文平が操る舟で海に出た。ダイビングスーツに着替えた舟作が月の明かりを頼りに海に潜り、“思い出の品々”を回収する。県の職員である珠井が大切な人を失った人<会員>たちを内緒で募って始めた活動で、2人は珠井に口説かれての手伝いだった。ただし貴金属類は引き揚げない。金目当てと誤解を生みかねないからだ。
舟作自身も震災で両親と兄を失っているが、なぜ自分が潜るのか分からぬまま潜り続けてきた。
ある日、会員の一人で眞部透子という女性が舟作を訪ねてきて、「指輪を探さないでほしい」と言う。理由を尋ねても「見つけてほしくない」と言うばかりだ。その理由とは一体……。
2011年3月11日に起きた震災を背景に描いた物語。生き残った者たちの複雑な思い、罪悪感、立ち直ろうとする姿が胸に迫ってくる。
(文藝春秋 704円)