「龍ノ眼」麻宮好著
「龍ノ眼」麻宮好著
隠密同心の長澤多門は、まるで翡翠のような美しい砥石の出どころを探るため小日向藩石場村へ赴いた。御公儀直轄の砥窪で採掘され闇取引されているのではないか、と奉行所が懸念したためだ。
着任早々、長澤は若く美しい男や「ここは胡乱な場所だよ」とつぶやく女・加恵、面妖な幼い兄弟らと出会い、言い知れぬ村の不思議を予感する。
砥改人に扮する長澤はやがて村の子どもたちから村人の信仰「おりゅうさま」の存在を聞かされる。さらに、おりゅうさまの裏は禁足地になっていること、ただし産婆のタケ婆は入ることを許されていること、男は25歳で長寿の祝いをしたこと、口の利けぬ少年がいることなど、奇妙な風習が耳に入ってきた。
そんな折、「こいつがせっかく生まれた子どもを殺した」とタケ婆に向かって叫んでいた女が死に、長澤は村ぐるみの罪業を疑い出す--。
砥石で潤う豊かな村を舞台に禁忌の掟に翻弄される村人たちを描く長編時代小説。村長の息子に嫁いだ加恵の物語も挟み込まれ、読み進めるうちに村を覆う暗い影が明らかになっていく。なぜ子どもは男ばかりなのか、身寄りのない女ばかりを嫁にするのか。命への切望から、より豊かに生きるという欲望が生み出した愚かさと悲しみがキリリと胸に迫る傑作。
(祥伝社 1980円)